「みーつけたっ」
幼い頃、君はかくれんぼをするとき、決まってカーテンの裏に隠れていた。
「どうしていつもおなじところにかくれるの」
「えへへ」
と無邪気に笑い合った君は、今もカーテンの向こう側にいる。
【カーテンの向こう側】
「みーつけた」
と言って、あの頃みたいにカーテンをめくることができたら。伸ばした手は、透明な壁に阻まれる。
君の顔を見るにはカーテンが邪魔で、カーテンをどけるには窓ガラスが邪魔だ。
「ごめんね、今は、誰にも会いたくないの」
彼女が世界全部を拒絶するには、薄い布切れ一枚で十分だった。
こつこつと窓を叩く。カーテンは揺れもしない。君の気持ちは尊重したい。でもやっぱり、僕は君の顔が見たい。やつれていないかな。怪我してないかな。泣いていないかな。
「ねえ……」
君が世界からのシェルターにこんな薄い布切れを選んだのは、僕に見つけてほしいからじゃないの? 僕の自惚れだったのかな。風一つで舞い上がりそうなカーテンが、僕と君を永遠に隔てる。君の影がカーテンに映るほど近くにいるのに。
「……泣かないでよ」
ふわり。重機でも動かなそうだった障壁を、君は片手で払い除けた。室内の明かりが目に飛び込んできて、君が世界を照らす神様に見えた。
――思い出した。子供の頃、君がいつもカーテンの裏側に隠れてた理由。君を見つけられないと、僕が不安で泣いてしまうからだ。だから、僕が手を伸ばせば見つけられる場所に隠れていてくれたんだ。
君と僕を隔てる壁が柔らかいのは、全部僕のためだったのだ。
「みーつけたっ」
カーテンの向こうから、晴れ間が見える。
6/30/2025, 11:37:02 PM