長身で野性味溢れる男が横たわっていた。彼の隣に少女は力なく彼に寄り添っている。
赤銅色のむき出しの肩に、森を思わせる黒緑髪に埋もれて、彫り深い顔は埋まっている。まだ若い。
辺り一面、燻したようないやな匂いが漂っていた。その場にいるだけで皮膚が張る。彼は地獄から巻き上がる炎の渦をその身に受け倒れたのだ。
震える手で彼に触ろうとして、身に付けていた服装が炭化していたのかほろほろとこぼれていく。
身体中の水ぶくれと腫れ上がった皮膚。人体の表面は一気に水分を失ったのだ。
身に付けた貴金属さえも未だ高温を放っている。中身は無事では済まなかった。
「カリオン…」
自分で彼に付けた名前だった。良く働く騎馬戦士だった。
苦しかったろうに、叫び声はほとんど上げずに彼は果てた。
それとも喉と肺が一気に焼かれ何も発声することができなかったのかもしれない。ぞわりと恐怖を感じると共に一気に胃の中のものかせり上がってきた。
嗚咽と共に地面に中身を吐き出す。
自分はなんと傲慢だったのか。大切な部下ひとりさえ守れない。
「すまない、すまない、カリオン…」
涙が溢れて前が見えない。彼の装飾品に水分がじゅうと染みた音がした。
薄く開いた瞳さえも白く濁っていて、閉じてやろうとして動かない固さを思い知る。なんて地獄。
古い石畳に靴音が響いた。振り返ると元凶の男が立っていた。癖のある朱色と金の混じる髪に、上級貴族のような時代錯誤の服装。周囲の空気が一気にぴりつく。
「サ、シェゼ」
「なんだ、随分と大切にしてんだな。子供みたいにグシャグシャに泣いて」
もうひとり、燃やそうか?と嫌な笑顔をする。
「いや!!!やめて、なんでもする!もう、なにもしないで」
動かないと思っていた身体で必死に彼の足元にすがり付く。カリオンをこのままに出来ないと抱えながら。
「へぇ」
「お、お願い」
地面に頭をすり付ける。
もう誰も。この男の反感を買って失うのは避けたい。
サシェゼは、ぐしゃりと娘の頭を鷲掴みにして地面に押し付けた。砂が口に入り顔に付く。
お高く止まっていたお前がここまで従順になるとはね。赤髪の男は至極愉快そうに笑った。
朦朧とした意識のなか、場面は一気にベッドの中に戻った。男の手のひらが首筋をもっと締め上げていくる。
「…っか…」
かすれて出る呼吸はそれだけ。サシェゼは死ぬぎりぎりまでこちらの首を絞めてくるのだ。
そのまま、身体の奥に楔をうち込められた。奴は腹の奥にとてつもない圧迫感を与えながら嘲る言葉を降らす。
「いいなお前。最高だ。いい拾い物をした」
もう何も身を守る術もない。過去の記憶を繰り返し視させられ、この男に蹂躙されていく。誰ももう失いたくない。
安らかな瞳
ところで「安らかな」「瞳」ってへんじゃないですか?
3/14/2026, 4:21:39 PM