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言葉にならないもの

 うんと小さい頃、親戚に連れられて芝居を見に行ったことがある。
笑えるお芝居だよ!と言われていたのに、びっくりするほど悲しい話だった。
 幼かったので詳しい内容は分からない。
ただ、いつもバカにされている心の優しい主人公が、人助けで何もかも失くし、でもそれは別の人の手柄になってしまい、皆が幸せになったのに主人公だけ、誤解されたまま寂しく去ってゆく……という理不尽なストーリーだった。
 私はショックで泣いた。

 たぶん生まれて初めて不条理を知ってやるせない気持ち……と今なら言葉に出来るけれど、当時はとにかく悲しかった。
 大人になって調べてみたら、藤山寛美さんという有名な喜劇役者の有名な悲喜劇らしく、確かにすごい迫力だった。

8/14/2025, 2:09:59 AM