「今度、学校休校だって」
『…どうせ嘘なんだろ?
飽きて適当なこと言うならやめろよ』
「ふ、やっぱり分かったか」
見え透いた嘘をつくその姿は、エイプリルフールでも特に変わった様子がない。
日頃からよく嘘をつき、周囲の人を困らせる君。
「あそこのコロッケ屋、ボロボロだから
コロッケに木屑が入ってるんだって」
「斜向かいのアパート、全室埋まってるから
今度地下を作るらしいよ」
日々嘘をつき続ける
そのバイタリティは尊敬して良いものか。
世間は今日限りのネタを持ち寄って騙し騙される
1日限りの極小イベントで盛り上がっている。
まさに四月馬鹿だな、なんで言えば君は笑った。
「人間、手の届く範疇にあるものには
全力を出して取りに行くんだよ
それはそうと、君は今日も陰気そうだ」
『そりゃどうも。
お前こそ、よく口が回るもんだな』
「どういたしまして」
褒めてねーし、と口を開く前に君が振り向いた。
「この日のためにとっておいた、
とっておきの嘘教えてあげよっか」
ひゅ、と風が吹き、咲き始めたばかりの桜が
もう散ってしまう。
勿体無い、
もう少し後に咲けばよかったのにと思う。
『なんだよ』
「桜の木の下には秘密が眠ってるんだ。
何が眠ってるか知りたい?
隣の小学校では、クラスのマドンナ。
あっちの猫町の方にある幼稚園には、
お母さんが1人と子猫がざっと23匹。」
『へえ、名前に負けず変な街なんだな
うちは?』
「僕だよ」
聞き返す間もなく
君の体は蒼い桜の花と化し、風に攫われていった。
それからしばらく忙しかった。
先生に言ってもなかなか信じてもらえなかったが、
気の弱い女教師を引きずって掘り返した桜の木の下には真っ白に細くなった君がいた。
学校には警察が登校するようになり、
無期限の休校になった。
暇つぶしによく通る傘橋の方では、
食事中、年寄りが喉に木屑を突き刺して死んだという噂で持ちきりになっている。
おばさんに招かれて家にお邪魔した時、
ふと見た斜向かいのアパートが一段低くなっていた。
落雁を食べながらアパートについて尋ねると、
どうやら地面に穴を掘り、アパートを埋めて一階を地下一階にするという計画が進んでいるという。
今でも入居者が絶えず忙しいらしい。
君の嘘は現実になった。
そういや少し前に、俺の死に方について
君は何か言っていたな。
ぜひとも苦しまず死にたいものだと思っていたら、
家を出たところで車に引き摺られ、皮が剥け黄色い脂肪を垂れ流しながら台湾まで誘拐された。
どうやら死して尚君は悪趣味なようだ。
頭上でニタニタ笑う君を見つめながら俺は死んだ。
4/1/2024, 5:02:07 PM