わたあめ

Open App

 ピロンと昭子のLINEの通知音が鳴る。
『今週の金曜日、泊まりに行ってもいいですか?』
孫娘の莉子からのメッセージが届いていた。
『いいですよ。来る時間とスケジュールを教えてください。食べたいものはありますか?』
特に予定もない。かわいい孫娘に会えるのは大歓迎だ。一人になって、自分のペースで行動する事が増えた。知らず知らずのうちに人に振り回されるのを好まなくなっていた。だから、予め予定を立てておきたいのだ。

『金曜日の17時ごろに行って、土曜日の9時くらいに友達と出かけます。土曜の夜にまた荷物を取りに行きます。おばあちゃんのかぼちゃが食べたいです。』
莉子から返事がきた。莉子は今年から高校に通っている。昭子の家は莉子の高校から30分くらいだ。週末、友達と遊ぶ時など自宅から行くより便利だと言う事で昭子の家に泊まりに来る事があった。

 金曜日、掃除機をかけて雑巾掛けをする。普段は気になった時しかやらないが、お客さんが来ると思うと張り切ってしまう。買い物に行って、莉子の好きなかぼちゃの煮物を作る。他にも鯖の唐揚げや白和などを莉子の好きなものの下準備をはじめる。作りながら、莉子が好きだったか、莉子の母親の希美が好きだったものか考えてしまう。

 17時を少し過ぎた頃、家のチャイムがなった。
制服姿の莉子が立っている。会う度に少しずつ大人っぽくなる。
「おじゃまします」と朗らかな声で挨拶しながら入ってくる。
「これ、お母さんから」と差し出した袋には大きな柿が二つ入っていた。
「おじいちゃんにお供えしてきて」というと夫の位牌の前に柿を置き、手を合わせている。

夕食の仕上げをして、2人で向かい合って食べる。
「おいしかった。ごちそうさま」夕食を食べ終える。莉子が食べ終わった食器を流しに運んでくれる。希美に言わせれば「何もしない娘」らしいが結構気を利かせて働いてくれる。希美だって昔は何もしない娘だった。孫に娘の姿を重ね合わせて懐かしい気持ちにもなる。
「食洗機に入れておいてくれればいいから」と私は莉子に声をかける。一人分の食器なら手で洗ってしまうが、こうしてお客さんがきて食器の量が多い時や、食事の後にゆっくりしたい時は使うようにしている。
自分でできる事を機械にやってもらうなんて贅沢過ぎると思っていた。しかし、食洗機もドラム式洗濯乾燥機もとても便利だ。「普通のでいいよ。勿体無い」と言う私にプレゼントと言ってお金を出してくれたのは希美だった。【老いては子に従え】とはよく言ったものだ。昭子は希美に感謝していた。

 片付けを莉子に任せ、お気に入りのロッキングチェアに座ってのんびりしている。
 片付けを終えた莉子が手の平サイズのワインレッドの包みを持ってきた。
「おばあちゃん、ちょっと早いけど、お誕生日おめでとう」
すっかり忘れていたが、後2週間ほどで昭子の誕生日だった。
「まぁ、ありがとう。何かしら」
包みを開けると中からシンプルなガラスの器に入った淡い紫のキャンドルが出てきた。
「せっかくだから、つけてみない?」と莉子。
キャンドルに火を灯すとつけると、ラベンダーの優しい香りがほのかに漂う。
 ゆらゆらと揺れる小さな火を見つめていると別の世界に行けそうな気分になる。この歳になって、孫にこんな素敵な物をもらえるなんてと昭子は涙ぐみそうになる。
「アロマキャンドル。おばあちゃんの部屋に似合うと思って」と莉子。
「私、今のおばあちゃんの家がとても好きだよ。前のおじいちゃんと暮らしていた家も広くて楽しかったけど、今のおばあちゃんの家はなんか落ち着く感じがして好きなんだ。私もおばあちゃんになったら、おばあちゃんみたいな生活がしたいな」
 莉子の言葉にまた涙が出そうになる。
————————
お題:キャンドル

11/20/2024, 9:40:42 AM