『また会いましょう』
ねぇ、なぜ私を置いていってしまったの?
貴方がいってしまってから、私はもう何をしたらいいか分からないの。
街で貴方によく似た風貌の男のひとが歩いているのを見ると、胸の奥が、きゅっとしぼんでしまって、それから小さな雫が、ぽとり。
なんだか、貴方はもういないのに、もういないはずなのに、まだ世界の何処かに貴方がいるような気がしてならないの。
ずっと、永遠に、貴方がもういなくなってしまった事実が判らないままみたい。
なんだかふわふわと夢の世界にいるよう。
この世は幻想世界なのかしら。
ふふ、馬鹿みたいね。もうあなたはとっくにいなくなっているのに。
なんだか忠犬ハチ公になったみたい。
だけれど、私はハチ公にはなれないわ。
貴方との関係は、そんな深いものではないのだから。悲しいけれどね、仕方が無いの。
あのバーで、貴方は、何一つ変わらない、変な苦笑いを浮かべていたことを不意に思い出してしまったわ。
ワイングラスを傾けて、くいっと一気にいってしまって、いつもならあと2・3杯をお飲みになるのに、
「今日はこれでいい」
なんて訳のわからないことを仰るものだから、私は薄笑いしながら、
「何を仰るの、いつもならもっとお飲みになっているのに」
と申し上げたわね。
そしたら、マスターにお会計を済まして、足早に店を出ていこうとするから、
「ねぇ、今度はいつ会える?」
と貴方の背中に問いかけた、そしたら
「またいつか会えるさ。また会いましょう」
と返してくれたから、ほっとして、それで別れたのが最後だったみたい。
私がこれから先、なんの変哲もない毎日を過ごしていたとしても、それはとてもつまらないことだと思う。
だって私はギャンブラー。
生きているなら、危なっかしいことがしたいもの。
じゃあね、また会えますように。
私はギャンブラー。ちょっと濃い人生が好き。
7作目。
11/13/2022, 11:56:14 AM