たまき

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#48 あじさい


風は弱く雨も止みかけ、しっとりとした天気の中。
私たちは、紫陽花を見に来た。

「ここの紫陽花は、いつもキレイだよねー」

「うん、色も種類もたくさん植えてあるね」

「色は、土壌の酸で溶けたアルミニウムと紫陽花の中のアントシアニンが反応すると青くなるんだってさ」

「ブルーベリー…」
言われてみると、なんとなく色味が似てるような。

「…食べたら目が良くなる?」

「あー、毒があるって言うから食べられないんじゃないかな。ほら、カタツムリとかいないでしょー」

「…確かに見当たらない」
勝手にイメージだけで居るもんだと思ってた。すまん、カタツムリ。今後見かけても紫陽花の葉には連れて行かないよ。そもそも触れないけど。

「カタツムリは、コンクリートを食べるからブロック塀の方が見つかると思うよ」

振ったつもりはなかったが、いつも通り情緒のない雑学に付き合いながら足を奥へと進めていく。

「すごい…」

青、紫、ピンク、たまに白。緑に囲まれた色彩は絵画のよう。
でもそれは、完全に人の手でコントロールされたものではなく、努力と自然の駆け引きによって出来上がったもので、だから来年はきっと違う色合いになっているはずだ。

感じ入った私に珍しく空気を読んだのか、彼も黙っている。と、思っていたのだが。

「人は、この色が移り変わるのを見て、無常って言ったり移り気って貶したり、逆に高嶺の花だと持ち上げたりしたんだってさ」

どうも次に話す雑学を考えていただけらしい。

「ふぅん、そうなんだ…」

だがしかし、無常か。
この切ないような気持ちは、それを感じているのかもしれない。

私は、なんとなく差していた傘を閉じて、
隣に立つ彼の傘の中に入った。

彼は何も言わずに傘を私の方に寄せてくれた。

別に、傘を持つのが疲れただけだし。
こんな時に限って用意していた言い訳の出番がない。

相変わらずの彼にため息をつくフリをして、
私は火照りを逃した。


「顔赤いよ?」

「気のせいじゃないですかね」

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(#25、#18の二人…のつもり)


以前みなさまの投稿の中で、アジサイの花を題材にしたものを読みました。
その方の書かれた通り、花が咲いているところを見たことなかったので、少々足を止めて観察しました。
建前で武装された小さな本音のような、
ひっそりと、でも確かに咲いていました。

6/14/2023, 1:06:53 AM