踊るように
dansant.
最後のtは発音しないらしくてダンサン。意味は「踊りながら、踊るように」。初めて見る音楽記号だ。
課題のために作られた新曲で、研究されたクラシックとは違うから、自由に解釈して「踊り」を表現できたらそれで課題は合格にすると言う。
ダンスなんてしたことがない。楽譜とにらめっこしながら動画サイトで検索するも、ヒップホップ、ポップダンス、社交ダンス、バレエ、ハワイアン、サルサ、盆踊り……どれもなんとなく楽譜の音符とはあわない気がする。
ああそういえば中学生の時ワルツは授業で踊らされたっけ。
ワントゥスリーワントゥスリー、相手を変えてワントゥスリー、くるくるひらひらくるくる。
くるくるひらひら……くるくる。
…あ。落葉だ。
ひらひら落ちる葉っぱが踊ってるみたいだなんて、中学生でピュアだった僕は小恥ずかしいことを考えたんだった。
くるくるひらひら…音符にイメージを落とし込んで鍵盤に触れてみる。
銀杏紅葉落葉の道。ひらひら、くるくる…
「君、ロマンチストなんだねえ」
曲を聞き終えた先生はにやにやと笑った。
「…不合格ですか?」
「まさか。君の“踊り”、とくと聞かせてもらったよ。合格」
無事合格はもらったものの、先生の笑顔になんとなく中学生から全く成長できていないような気がして頬が熱い。くるくるひらひらで合格をもらって良かったんだろうか。
音符とにらめっこする。
ぽろぽろと僕をからかうように音符は楽譜の上で自由に踊ってみせる。
9/7/2024, 1:16:06 PM