彼岸花

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閉ざされた日記

私には9歳の娘がいた。
彼女は活発でいつもどこかに出かけたがっていた。
太陽のように明るかった。

ある日彼女は、
「思い出を忘れないように何かに書いておきたいな。」
そう言った。
そんなことを言われたのは初めてだったため、
少し驚いたが同時に成長したのだろうと思っていた。
そこで私は一冊の日記帳をプレゼントしたのだ。

表紙には彼女の大好きだったウサギのシールを貼り、
かわいい鉛筆も一緒に置いておいた。
学校から帰り、部屋に入った途端彼女は
わぁ!と嬉しそうに目を輝かせた。

「ありがとうお母さん!大切にするね。」

それからというもの、彼女は毎日一生懸命に
日記を書いていた。
だが、内容は決して見せようとはしなかった。
学校に行っている間には鍵をつけていた。
まぁ、そういう年頃なんだろうなと思っていた。

いつもの暖かい日々がずっと続くと思っていた。
しかし、運命の神というのは実に残酷だった。
彼女が突然倒れたのだ。

救急搬送された病院で彼女の死亡が確認された。
…目の前が真っ暗になり、涙でなにも見えなかった。
ただ嗚咽を漏らすことしかできなかった。

数日後、彼女の生きていた証を形見として持っておこうと部屋を掃除していると
日記を見つけた。

鍵は
かかっていなかった。

そしてその間には紙が挟まれている。
【もう見ていいよ。今までありがとう。】
…そう書いてあった。

私は驚きで何も言えずにしばらく立ち尽くしていた。
そして、静かに1ページを開いた。

5月1日
今日はみんなでお花畑にいった。
その中でも私が好きなのはストックという花。
6月までにたくさん思い出を作らなくちゃ!

5月2日
お母さんと一緒にお買い物をしたの。
お団子を買ってくれてとっても嬉しかった!
やりたいことは全部やって、
食べたいものは全部食べたい!
お星様になったときに後悔しないようにね。

段々と目頭が熱くなる。
その後もお祭りにいったこと、一緒におしゃべりしたことなどが書かれたページをゆっくりと時間をかけて読んだ。

そして最後のページには

【お母さんがこれを読んでるってことはもう私はいないんだよね。今まで本当にありがとう。そしてごめんね。
実は隠してたことがあるんだ。…他の人には内緒だよ!
私、ミライが見えるんだ。…こんなの信じてもらえないと思うけどホントだよ。だから、楽しいことも全部見えちゃうんだ。悲しいこともね。私、6月になると死んじゃうんだって。なんとかなんとかっていう病気らしい。
でもね、ミライは見えても、それを変えることはできないの。なんでだろうね?…だから私はせめて思い出を
いっぱいいっぱい残しておこうと思ったんだ。
だから今までわがまま言ってごめんなさい。
お母さんのおかげで、楽しかったよ。】

あの子が死んでしまったのも、
こんな能力を持っている理由もわからない。
でも、あんなに小さな子が“死”という運命を背負ってきた辛さはよくわかる。
そして彼女は誰よりも大人なのだ。

私は一冊の日記を抱きしめた。
これは我が子の分身なのだから。

1/18/2024, 12:54:58 PM