へるめす

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深更の砂礫に幽然と河水の寄せる音だけが響く。
どれくらいの時間、こうして二人居並びながら、ただ柔和に揺れる水面を見詰めていたのだろう。水の流れは黒々として底知れない。やがて、いずれともなく沈黙を破ろうとしたのだろう、覚えてる?二人で――君が言いかけたとき――あのさ……と、僕は遮るように呟いた。花火したよね、こういう河原でさ。僕の言葉に、君は微笑みながら言う。おんなじだね――ずっと。二人を急き立てるようにしたたかに風がそよぐ。そうだね。君の髪は艶然と蠱惑するように大きく靡く。
それじゃあ、また。うん。絶対に忘れないよ。うん。潤んだ瞳をゆっくりと閉じると、意を決し、二人は歩き始める。それから、二人は足首にさやかな水の冷たさを感じると次第に全てを忘れていっただろう。そしてまた、瀬音は、他日の再会を誓う二人の言葉さえ覆い隠すように流れて行ったのだろう。
――じゃあ、またね。

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生きる意味

4/27/2023, 8:44:57 PM