薄墨

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モニターの前、僕はじっと座り込んで、文を読む。
液晶の文章の上を、目が滑ってゆく。

なんて読みにくい話だろう。正直に言えば、そう思う。
人差し指だけが、マウスのホイールボタンを忙しなく送っている。

頭も心も目も働かない。
それほどにこの文章は、面白くない。

窓の外からは、子どもたちのはしゃいだ声が聞こえる。

「そういえば、隣に越してきた人がね…」
「うちの夫ったら、飽き性で…」
「いつもお世話になってるみたいで、ありがとね。うちの子ったら…」
道に立ち止まり、歓談する人々のたわいもない世間話。

…又聞きするこれらの話の方が、まだ、面白い。

左手が、機械的に傍のスナック菓子を取り、口へ運ぶ。
いつもよりしょっぱい。

外からは、僕くらいの歳の人の声は聞こえない。
それはそうだ。今はまだお昼といっても差し支えない時間なのだから。

どこかでキジバトが鳴く。
かちり、と秒針の動く音がする。

喉を刺激する二酸化炭素ごと、無理やり、炭酸飲料を飲み干す。
視界がうっすらとぼやける。

ぼやけたって、目の前の文章の魅力のなさは変わらない。
僕の書いた、この文章は。

僕には届けたい想いがたくさんある。
美しくて残酷なこの世界のこと、不思議な人間の感情、見えない絆、数奇な運命…

そんな想いを届けるため、僕は文芸部を経て、文学部を志し、いろいろなものを犠牲にしながら、ずっと努力を重ねて…

でもいざ書いてみれば、この有様。
本人にすら伝わらない駄作。届かぬ想い。

これで何回目だろう。
書いてないジャンルはまだ残っているだろうか。
目の前が霞む。

僕の想いは誰にも届かない。

僕は、僕いっぱいの、届かぬ想いを抱えたまま、ブルーライトを浴び続ける。

冷え切った部屋に、スマホの通知音がぽつんと響いた。

4/15/2024, 12:42:40 PM