香草

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妹の顔が歪む。口を大きく開けてツンザクような泣き声をあげる。
「いいじゃん!ちょっとくらい!なんでお姉ちゃんばっかり…」
丸い頬に涙が伝う。制服の袖で拭う。
なんでお前が泣くんだよ。
「どうしたの!」
すぐに母親が部屋に入ってくる。
妹によく似たくるくるの髪を振り乱しながら。
私をちらりと見てからすぐに妹に駆け寄る。
「中学生にもなって泣かないの。何があったの?」
小さい子をあやすように背中をさすりながら優しく声をかける。妹は勢いを増してしゃくりあげながら泣き出す。
「お姉ちゃんのワンピースを借りようと思っただけなの。明日の修学旅行の出し物で衣装として使いたくて。でも全然貸してくれないの。洋服いっぱい持ってるくせに。」
母親は少し気まずそうにこちらを見る。
「ねえ、少しくらい貸してあげることはできないかな?この子もちゃんとも物を大切にするタイプだから。気持ちは分かるけど、やっぱり家族仲良くするためにはそういうことも必要だと思うの…」
何を言ってんだこいつらは。
そもそも私のワンピースじゃない。
「私のママのワンピースだから。」
10年前亡くなったママが私に遺した唯一のもの。
衣装?ふざけんな。家族仲良く?私の家族はママだけだ。
妹の顔が凍りつく。母親は何も聞こえなかったかのように目を逸らし、小さく「行くわよ。」と呟いて妹を連れて部屋を出て行った。
ドアが閉まった瞬間、目の前がぼやける。

11/30/2024, 11:40:17 AM