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「秋風の約束」

秋の風が、色づいた木々をそっと揺らしている。東京の小さな公園。そのベンチに座る美咲は、手の中のスマートフォンを握りしめながら、通知の音を待っていた。けれど、画面は静まり返ったままだ。

「もう、返事なんて来ないのかな……」

独り言のように呟いた声は、風にかき消された。2年前、彼と出会ったのもこんな季節だった。


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夏樹と出会ったのは大学の講義だった。彼は少しぼんやりしたところがあるけれど、いつも笑顔を絶やさない人だった。美咲が悩みを抱えていた時も、彼の何気ない言葉が何度も救ってくれた。

「美咲ってさ、ちゃんと笑った顔、すごく可愛いんだよ。自分で気づいてる?」

初めてそう言われた時、恥ずかしさで思わず顔を隠してしまった。でも、その瞬間、彼の笑顔が心に深く刻まれた。二人は次第に距離を縮めていき、いつしか恋人同士になった。


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「美咲、ごめん。」

その言葉を聞いたのは、ちょうど1年前。就職活動で彼が海外の企業に採用されることになったと告げられた時だった。彼の目はまっすぐだった。将来の夢を語る姿は、彼らしいと思った。

「本当は、遠距離なんて耐えられる自信がないんだ。でも、美咲を裏切りたくないから……別れることを選んだ。」

彼の言葉は真剣だった。泣きながら抗議したかったけれど、彼の目の中に決意が見えた。だから、美咲は泣き笑いを作ってこう言った。

「じゃあ、またどこかで偶然会えたら、その時は……もう一度、好きって言わせて。」

夏樹はその言葉を聞いて、少しだけ微笑んだ。そしてそれが、彼と最後に見た笑顔になった。


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それからの一年、美咲は何度も手紙やメールを書いては消した。気持ちが消えるわけではなかったけれど、彼の新しい世界に自分が入る隙間なんてない気がして。だから、送ることができなかった。

それでも、彼のSNSを時々こっそり見ては、彼が元気でいることを確認するだけで満足しようとしていた。けれど最近、彼の投稿が途絶えた。何かあったのかもしれないと不安が胸を締め付ける。


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スマートフォンが震える。通知音が小さく響いた。震える手で画面を見ると、そこには彼の名前があった。

「美咲、ごめん、急に連絡して。実は、日本に戻ってるんだ。」

思わず息を飲む。読み進めると、彼の言葉はこう続いていた。

「君に会いたい。会って……謝りたい。そして、もう一度、好きだって言わせてほしい。」

胸が痛いほどに高鳴る。嬉しさと切なさが入り混じる中、美咲は深呼吸をして返信を打った。

「私も……会いたい。あの公園で、待ってる。」


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そして今、美咲は公園のベンチで彼を待っている。秋の風が彼女の髪を揺らし、やがてその向こうに彼の姿が現れた。少し大人びた顔立ちの彼は、まっすぐ美咲の方を見つめていた。

「美咲……ずっと後悔してた。」

彼の言葉に、涙が止めどなく流れる。

「私も……ずっと、好きだった。」

再会の瞬間、二人の距離はゆっくりと埋まっていった。そして、今度はもう二度と、はなればなれにならないようにと、彼らはそっと手を繋いだ。

11/16/2024, 12:26:44 PM