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遠くの街へ


そこは海の見える街らしい。そんな話を聞いて、いつか行ってみたいな、なんてことを思った。山に囲まれて育ったからか、一度も見たことのない海への憧れはずっとあった。それに、海辺の街はどこかお洒落なイメージがあったから。
しかし、行くのには時間もお金もかかるし、なんとなく億劫に感じてしまって、結局行かないまま何年も過ぎてしまった。
でもそんなある日、なんとなくいつも乗る電車に乗るのをやめて、反対側に進む電車に乗り込んだ。
どうしよう、なんてあれこれ考えたところでもう遅い。だから、いっそのことと開き直って、窓際の席に座った。
移り変わる景色が新鮮で、長いこと電車に揺られていたのに一瞬たりとも飽きることなんてなかった。
終点で降りて、港の先の方まで歩く。目の前に広がる海はどこまでも続いていて、ただただ美しかった。後ろを振り返れば、活気のあふれる港町がそこにはあって、存分に満喫して、帰りの電車に乗り込んだ。
電車に揺られながら、ふと思う。
世界は広いようで案外狭くて、想像していたよりも近くにあるってこと。憧れだと思っていた遠くの街もいざ行ってしまえば、思っていたよりも何倍も近くにあった。
楽しかったなぁ、そう呟いて、だんだんと見慣れた景色に少し安心する。
ああ、今度はもっと遠くへ行こう。まだ行ったことのない場所なんてたくさんあるのだから。もっと遠くへ、まだ誰も行ったことのないようなそんな遠くの街へ想いを馳せて。

2/28/2023, 2:00:05 PM