たやは

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愛情

地域のタウン誌のコラムを書くようになったのは、隣りの家のおばあちゃまがそろそろコラムを辞めて、次の人に渡したいと言っているのを聞いたからだ。
結婚前は本の構成の仕事をしていたが、自分で1から文章を書くことは余りなかったので、興味が湧き、コラムの仕事を受けることにした。

コラムの内容は、時には子育てのこと、時には100円均一の便利グッズのこと、時には新しくできたカフェのこと、などなど多岐にわたる。おばあちゃま曰く。

「読んでくださる方がほっこりできるような内容が1番。」

難しいアドバイスだが、そんなコラムが書けるように頑張っている。

今日は娘と散歩をしながらコラムの材料探しに川の近くまでやって来た。
川の近くには、雑貨屋さんやカフェ、ケーキ屋さん、レストランと新しいお店が続々と開店している。雑貨屋巡りなんて楽しそうだが、5才になる娘の手を引いて長い距離を歩くのは無理なのでゆっくり川沿いの景色を見ながらの散歩だ。急に娘が鼻をクンクンとし始めた。
なんだろう?

「いい匂い。シチューの匂い。お腹空いたよねぇ。」

シチュー?
うんうん、たしかにシチューの匂いだ。

「お昼ご飯を食べようか。」
「うん。シチューがいい〜。」

娘のリクエストに答えようと匂いのする
レストランを探すが見つけることができなかった。

「お腹空いた〜。」

私もお腹空いた。頬を膨らまし「お腹空いた」を連発する娘を抱き上げ、どうしようかと考える。

「お家でママのシチューでもいい?」

キョトンとした娘の顔がにっこりと笑顔になりうんうんと頷いた。

「いいよ。帰ろうよ。ママ。」
「帰ろうねぇ〜」

シチューの材料を買い込み、足早に帰宅し、シチューを作り出す。ニンジン、じゃがいも、玉ねぎ、お肉を煮込み牛乳を入れかき混ぜる。美味しくなるようにと愛情込めて作っていく。私のエプロンを掴み、鍋を覗こうとする娘も「美味しくなぁれ〜」と言いながら見守る。

「さあ。できた。食べようか」

シチューを口一杯に頬張る娘を見ながら、ほっこりする。心がほっこりすることは、日常生活の中にもあるのだと、おばあちゃまの言っていたことを見つけた気がした。

後日、保育園に娘を預けて再び川沿いへ。シチューの匂いの出どころがどうしても気になり、あちこちお店を見て回ることにした。何軒目かのお店でやっと探し当てたのは、パン屋さんだった。厚めに切られた食パンをお皿のようにしてパンから溢れるくらいのシチューの乗ったシチュートースト。シチューとパンのいい香りがする。
レストランやカフェばかり探していたので気がつかなかった。美味しそう。
1つ買って食べたが、熱々のシチューの塩味と外がカリカリ、中がふんわりとした食パンのほんのりとした甘さが混ざり、めちゃくちゃ美味しかった。パンを食べたことは娘には内緒だが、心がほっこりするパンだった。

次のコラムにはこのパンの話しを載せてみよう。

11/27/2024, 8:01:17 PM