太田エイ

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満月の下、街道を外れ崖の方までジリジリと鍔迫り合いが続いていた。
何かの弾みか、ふたりは同時に飛び退いた。
そして同時に振り下された刀がギラリ。
肉を斬る手応えが空気を震わせた。
ふたりともどうと崩れ落ちた。
あたりから人の気配が消え、静寂が訪れた。

何刻経ったか、満月が沈み、雲間の星明かりで一人が立ち上がった。もう一人も、いつの間にか立ちあがっていた。
互いに気づいた瞬間、刀を探しもう一度構えようとするが……。

「ぬし、もうよそうではないか」
ひとりが声をかけた。
「親の仇とはいえ見ず知らずの貴公を斬り捨ててもなにも残らん」

「待て待て。おぬしはまだ生きておるのか? 先ほど確かな手ごたえを刀身から感じたが……」
「拙者も感じたが……、死んでなくとも相当な痛みのはず……」
「そちらこそ相当の手負いのはずだが……」
「妙だな」
「身体に付く血はおぬしのもののはず……」
「それは己の血であろう」
「拙者は痛みも感じない」

雲がきれ、星空の下で辺りがうっすらと見えてきた。
ふたりの間にひとりの男が倒れている。

「……これは」
「……まさか」
ふたりの声が同時に出た。

……倒れているのは、拙者か
「はて、面妖な……」

「返り討ちですまぬ」
……いや、かまわん、己の修練が未熟だっただけのこと
「いや、剣さばきは見事であった。勝負は互いの力ではなく、天の思召し」
……無念ではあるが、ぬしと話せてよかった
「早くに知古を得ておれば、そして親の因果がなければ、良き友となれたものを」
……いかにも、今となっては仇よりもそれが無念なり

そして互いに手を差し出すも空を切るだけであった。

……さらばじゃ、いずれ天の拙者を訪ねて参れ
「必ずや」
……

4/5/2026, 6:20:46 PM