かたいなか

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「おぉ。不条理……」
やべぇ。昨日のネタから簡単スライドできるじゃん。
毎度毎度、通知画面の短い文章に頭をかかえ途方に暮れる某所在住物書きが、今日は珍しく、心安らかに、小さく頷いて短文のスタートを組み立てている。

「そうそう、こういうのが良いんだよ。自分の嘆きだの、苦しいのだのを、本気で文章に叩き込めるから」
■■のノルマ営業で心壊されたのも書ける。△△の「実はイメージほど温かくない」も書けるぜ。
1、2、3。ネタを指折り列挙して、
「……で、世の闇書きたいのにギャグになる……」
5を数えた頃、かくんと、頭を垂れた。
「よのなか、ふじょうり、いっぱい……」

――――――


「世の中!不条理ッ!!」
夜。日付が変わり、時計の短針も1周回り終えた頃。
「なにアレ!『アナタの担当でしょ?なんでアナタが責任持って、最後までやらないの?』だって!」
尾壺根係長による「前日」のトラブルで、後輩の精神衛生が酷く悪化してしまったので、
次の業務に支障が出ないよう、急きょ私のアパートに呼び、毒だの涙だのを抜こうと、考えたのだが。
「パワハラパワハラ!オツボネ反対ー!」
たまたま残っていた餅の複数を、チーズと一緒に炙るなり、みたらし醤油に絡めるなりして食わせ、
心の落ち着いたあたりで、ノンアルコールと告知せずノンアルコールビールを出したところ、
「全国の!クソ上司被害に遭ってる皆さん!心の中で一緒にご唱和ください!『うるせぇクソ上司!』」
非常に、ひじょうに、元気になった。

どこかで「脳は一度酒と酔いの味を覚えるとノンアルでも雰囲気で実際に酔える」と聞いた。
本当かどうかは分からない。後輩は酔うらしい。

「少しでも、気が晴れたのなら、なにより……」
最初に用意した餅が早々に底をつきそうなため、キッチンで新しいのを準備しつつ応対している。
後輩が不条理を嘆くのは、もっともな話だった。
職場で「お名前まんまのオツボネ様」と名高い、係長の尾壺根に、何度も何度も確認をとり、最終的にゴーサインを出されて課長へ提出した業務が、
肝心の尾壺根の、チェックを頼んでもほぼ我関せずな悪癖が祟り、課長決裁でミスが見つかった。
そこからの、オツボネ様による「あなたの担当でしょ」であり、「始末書書きなさい」だ。
そりゃ理不尽だ不条理だと叫びたくもなる。

「まだっ!まだ、晴れてなぁーい!」
餅より先に、酒がエンプティーらしい。後輩が上機嫌な頬と足取りで、冷蔵庫を漁り始め、
「うぇぅ。ノンアルしかない。いいやコッチ貰おう」
片っ端から強炭酸だの、朝飲む用のコーヒーだの、それに入れる牛乳だのをサルベージして、ぴょこぴょこ更なる上機嫌で退散していった。
小さな不条理と形容すべきか、後輩のメンタルケアに対する重要な必要コストと定義すべきか。
じゅーじゅーお焦げをつくり始めた餅に対処しながらの頭では、ちょっと判別が難しかった。

3/18/2023, 11:28:35 AM