弥梓

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『刹那』

※BL 二次創作

二十二年歳の時あいつと出会った。あいつと過ごしたのはたった数ヶ月にも満たない時間だったが、鮮烈な赤をオレに植え付けて、あいつは消えてしまった。
あれから三十年の時が過ぎた。
長年の傭兵生活での無理が祟って、体はボロボロになっていた。
自身の命の燈が消えかかるのを感じる。
死への恐怖はもうなかった。あれほど渇望していた生き残ることへの喜びも。
死を目前にしたオレの心は穏やかに凪いで、やっと終わるのかと安堵すらしていた。
死ぬなら戦いの中で死にたいと思っていたが、どうやらそれは叶わなそうだ。
ベッドの上に横たわるオレの周りには、大小様々なガキどもがいる。どいつもこいつも辛気臭いツラしやがって。
「ルーカス」
「先生……」
戦場で拾った孤児を何の因果かオレが面倒見ることになり、たまたま訪れた孤児院で後任の神父が見つからないからと、無理矢理おしつけられ、いつのまにかガキどもに『先生』などと呼ばれるようになってしまった。
ルーカスを助けたのも、哀れなガキを見捨てられないなんて善人ぶった理由ではなく、お前だったらそうしただろうと思ったら、勝手に体が動いていただけだと言うのに。
まったく忌々しい男だ。
オレの六十年に満たない人生の中の、ほんの刹那の瞬間しか共にいなかった分際で、オレの一生を支配しやがった。
「お前がいればここは大丈夫だ」
「はい。がんばります。先生、本当にありがとうございました。先生に助けてもらわなかったら私は」
「最後に湿っぽい話してんなよ。オレはやりたいことはやりきった。人生に未練はないからな。それに、これでやっとあいつに会える」
「前に話していた……先生の初恋の方ですね」
初恋。そうだ、確かに誰かにこんな気持ちを抱くのはあいつが初めてだった。
初恋を三十年も引きずって、死後の再会まで夢見てるとは笑い話もいいところだが、オレは本気だ。
目が霞んで視界が真っ暗になる。
オレの手を握っているはずのルーカスの温もりが感じられなくなり、何も聞こえなくなった。
薄れゆく意識の中、懐かしい柔らかな笑顔がオレの名を呼んだ気がした。

4/28/2026, 6:15:46 PM