ジーキャー

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 自分にとっての理想郷は他人にとってのディストピアである。
 この言葉を誰に伝えたいのか。それは、操れない人形を操ろうとする者に投げ掛けるだろう。
 崩壊の鐘の音色が鳴り響いている。誰も聞こうとしない。序曲が終わった。第一楽章が始まる。ラッパの音色が輪唱していく。
 彼らは見ていなかったのだ。大前提を見落としていたのだ。憤りを宿らせる。狂訳は成されると知らずに。
 ラッパの音色が吹き響いている。それでも聞こうとしない。七連の音色が重なり吹かれ、輪唱は広大に響き渡る。
 糸は切れ、穴は塞がれてしまっている。そのことになおも気づいていない。穴を塞いでいるのは、病の種子だというのに。
 遥か遠くからすぐ近くへと、確かに近づいている音色の音を塞ぐかのように聞こうとしない。ラッパの音色が吹き終える。
 種子が芽吹き、葉が育っていく。マリオネットの身体を蝕むように。
 バイオリンの音色が響き始める。崩壊の音色に合わせて。第二楽章に入ったかのように。
 葉は広がり蔦となりマリオネット全体へと絡まり縛る。決して離さないかのように。
 ドラムの音色が高らかに追走する。バイオリンの音色の後を追うかのように。それでも耳を塞いで聞こうともしない。
 ユートピアはディストピアへと変貌を遂げた! もう二度とあの頃へと返り咲くことは決して無い!
 再び鐘の音色が鳴り始める。ラッパもそれに追走するかのように吹き鳴らされる。
 聞いた者たちは、音色を耳にした者たちは、皆、発狂し出した。耳を塞ぐことすら困難になり始めている。
 花が咲き誇りゆく。病魔の黒花が女王のように。艶やかに。
 鐘が、ラッパが、バイオリンが、ドラムが、パタリと鳴り終える。そして、入れ替わるかのように、フルートの音色が響き渡る。
 発狂する者は後を絶たない。崩壊の音色を聞いてしまったから。
早々と狂ってしまえば良かったのか。それは誰にも分からない。ただ、崩壊の音色はあらゆる幸せを壊しゆくと言うことだけ。
だから聞きたく無かったと言うのに。
 フルートの音色に合わせて、ドラムが音色を鳴らし始める。次いで、バイオリンが。ラッパが吹き鳴らし出して、最後に鐘が鳴り響く。 
 最終楽章に入ったのだ。
 ユートピアを構成していたもの。それがいなくなれば、ディストピアへと真っ逆さまに堕ちていく。
 かつてのユートピアで女王のように君臨していた者は、ディストピアにおいて、嘆きの涙を流しゆくのみーー。

10/31/2024, 12:08:32 PM