「別になんとも思ってねえよ」
「ふうん? じゃあなんでいつも持ってるの」
電車待ちの時間。勝也のスポーツバックにぶら下がっている、水色のゾウのぬいぐるみ。
「外すのも面倒だから」
「そんな手間じゃないでしょ。外そうか?」
「いい」
「ほらあ、やっぱり気に入ってる」
「そんなんじゃねえって」
「外そうよ」
「いいって」
「なんで」
勝也は頭をかいて私から目を逸らした。
「……願掛け、みたいな?」
「なにそれ」
「いいよ、こんな話」
「良くないって、目ぇ外れそうじゃん。のっぺらぽうはイヤでしょ。今裁縫セットあるから」
「じゃあ」
勝也はバッグを背負ったまま、駅のベンチに座る。
「お願いしまーす」
「せめてバッグおろしなよ」
勝也は動かない。
相変わらずめんどくせえ男だな。
など思いつつ、そのままゾウのぬいぐるみを繕ってやる私も物好きなのかもしれない。
「もう一個作ろうか、今度はピンクのやつ」
「いいよ別に、これ以上ぶらぶらするのはごめんだよ」
「つける前提なんだ」
線路の片隅で、二輪のたんぽぽが春風に揺れていた。
【お題:お気に入り】
2/18/2024, 2:04:34 AM