未知亜

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「やったー、かんせーい!」
ㅤ弾んだ声と共に目の前に両手をかざされ、私は自分のそれを慌ててエプロンで拭う。茶色や白に染まった指先を外側に反らせ、手のひらだけをトンと打ち合わせた。
ㅤココアパウダーや粉砂糖、スライスアーモンドで飾られたトリュフが、銀色のトレイに整列している。小ぶりな丸いスイーツを見つめ、腰をかがめた福子は満足げにため息をついた。
「初めて作ったにしては、なかなかじゃない?」
ㅤよし、と言って、彼女は迷わず一粒摘み上げる。
「さっそく一個!ㅤいっただっきまーす!」
ㅤホワイトチョコにみかんジャムを混ぜたチョコが、桃色の唇の奥へと消えた。私の作った変わり種のトリュフだった。興味津々で手元を覗きに来ては、どんな味がするのかとずっと気にしていたのだ。
「ん!ㅤ酸っぱくて美味し~!ㅤとろっとしてる~!」
ㅤ足をパタパタさせて喜ぶのが可愛らしい。
「ありがとね、試作に付き合ってくれて」
ㅤ本番も上手くいきそう。
ㅤ幸せそうに微笑む彼女のほっぺに、ふたつめのトリュフが吸い込まれる。
「一個じゃなかったの?」
ㅤわざとそう言ってやると、
「えへへ、だって美味しいんだも~ん」
ㅤ満面の笑みが返ってきて、私の言葉を詰まらせた。
ㅤ好きな相手を思って作った、コロコロとした丸いチョコ。私のココロそのもののようで。
ㅤ数日早い祝日の今日こそが、試作と呼ばれたこれこそが、私には聖バレンタインデー。


『ココロ』

2/11/2025, 12:30:52 PM