勝ち負けなんて

俺にはどうしても負けたくない人がる。
「勝ち負けなんてどうでもいいやんw、楽しむ方がいいと思うんやけどw」
勝負に負けて笑ってるあいつは、悔しさってものを知らないんだろうか？

爽やかな笑顔をしているあいつは準決勝。
絶望の縁のような俺はベスト８。
覇気のない目は、録画した自分を見ている。
「ここが、もう少角度を、、、いや、その前のステップが、、、やっぱり反射神経か？」
呟かれる言葉は、試合を見る友人の耳に入る訳もなく、ノートに書き殴られる。
決勝戦の張り詰めた空気は、客席ではただの熱狂。

大会の後に、これが予選も兼ねられていたと、先生がいきなり言い出した。
幸いベスト８が出場権を獲得できるらしく、俺は次に進めるらしい。
先に言えと思うが、変に緊張させないし、ベスト８戦の後に気が抜けるの防ぐためとかほざいてた。
おかげかは知らないが、次の大会に参加できるのは嬉しいことだ。

大会後の部活はいつも気が緩む。あいつと俺以外。
今日の練習は大会の時に思ったことの、改善や成長させるため、好きに組んで自由にメニューを作る。
俺は、あいつと俺の何が違うか知りたかった。
なんであいつは負けて笑えるんだろうか？
「俺と本気の試合しようよ、キャプテンさん？」
挑発であり、挑戦。

部活ではよく見る光景。それは大会よりも重い意味を持つ。
俺とあいつの試合は毎回終わらない。
永遠と続くデュースと、たまに動くセット。それは天秤に乗った同じ寸胴。釣り合い、そして動かなくなる、どちらも勝ちきれない。
勝ちでも負けでもないそれは、悔しさに近いなにか別のモノも俺に残す。
けど、あいつには残らないらしい。

残らないあいつは、残っている俺よりよく笑う。
残っている俺は、残らないあいつよりよく考える。
笑顔の奥ですごく考えているかもしれないから、正しく無いかもしれないけど、俺はそう思っている。
「ずっと聞きたかったんだけどさ？(主人公)はさ、試合してて楽しいの？」
試合は楽しい、だけどそれ以上に勝ちたい。
勝たない俺は俺じゃない。俺じゃないと母さんも父さんも褒めてくれない。

不思議な質問は、また何かを俺に残した。
残った何かが気持ち悪て振り払おうと、練習に打ち込む。練習にはあいつも居て互いに弱点を突く。
悩めば悩むほど、俺とあいつは次へ行く。
不思議な関係だけど、それは俺らの日常。
その日常は、突如人前に現れる。
互いに張り詰めた空気を感じる今日この日。
熱気に包まれ、動かぬ天秤は今日揺れる。

「勝ち負けなんて。」
その答えは、交差する玉と視線の間。
笑顔のあいつは今日も強い。けど俺だって強い。
一歩も引かない攻防戦。一歩も引けない攻防戦。
続くセットは、いつもより長い。
その長さは、疲れと本心を呼び覚ます。
「なあ、次点を取った方が勝ちにしないか？」
10回以上続いたデュースが、審判と俺に理由を付けて、最後が始まる。

サービスは弱く、思いっきり撃ち抜く。
返る玉に乗ったスピードは、自分へも返る。
譲りたくない、そう思わせる何かが。
試合を区切る。
強い想いは、いつしか焦りに変わっていた。
その焦りは空を切る。

負けた。
けどなんか嫌だけど、まぁいいやって思えた。
勝ち負けなんか。は嫌いだけど、ちょだけあいつもいいなって思った。
それ大きな変化ではなかった、けど大切で今でも残っている。
その試合の後、最強のダブルスが出てきたのはまた別のお話。

5/31/2025, 12:59:48 PM