いろ

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【ジャングルジム】

 しんと静まり返った夜の公園。吹き抜ける冷ややかな風を感じながら、ジャングルジムのてっぺんに座り天上の月を見上げる。黄金色の満月は、硬質な光を粛々と地上へ注いでいた。
 子供の頃はこの高さが怖くて、登る途中でいつも足をすくませていた。そんな私に手を差し伸べて、てっぺんまで導いてくれたのは君だった。
(ねえ。私はもう、一人でここまで登れるくらい大人になったよ)
 心の中でそっと呼びかける。幼い姿のままで永遠に時を止めてしまった幼馴染。何年経っても君がいた頃の状態を保っている君の部屋のクローゼットの奥から、おばさんが偶然発見したらしい数年越しの君からの手紙を開き直した。
 おばさんに呼ばれてこれを渡された時にこぼしてしまった涙の跡が、便箋にシミを作ってしまっている。拙い文字、幼い文面。あの頃は賢い大人のように見えていた君も、本当はただの子供に過ぎなかったのだと、今さらながらに思い知らされる。
 ずっとだいすきだよ。鉛筆で刻まれた愛おしい文字を、指先でなぞる。成長してしまった私はもう、あの頃の私とは違う私になってしまっているだろう。今の私を見ても君が私を好きだと言ってくれるのかはわからない。だけどそれでも。
「私だって、ずっと大好きだよ」
 大切に胸に抱き続けてきた想いを、手紙へと囁いた。届ける相手のいない拙い告白を、月影だけが凛然と聞いていた。

9/23/2023, 9:12:17 PM