たぬたぬちゃがま

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あ、と思ったのは一瞬だった。
次の瞬間、大きな音と共に彼女は地面と抱擁していた。


「いたたたたッ もっと優しく!!」
「十分優しいと思いますけど……」
救急箱の中にあったガーゼに消毒液を染み込ませ、そっと傷に触れる。しみるのか少し触れただけで彼女は大騒ぎだった。
「靴紐がほどけて足がもつれたんですね」
「たかが紐のせいでこんな痛い思いを……」
「骨折する人もいるからあまり甘く見ないほうがいいですよ」
ぺたり、と絆創膏を貼ると彼女の威勢の良さはしゅるしゅると萎んでいた。痛みが和らいで落ち着いたのかもしれない。
「100均のゴム靴紐おすすめですよ。履きやすくなるし解けないし」
「100均行くと知らないうちにカゴの中で増殖してレジでびっくりする値段になってるからなあ」
そんな馬鹿な、と言いそうになるのをくっと堪える。無意識にポイポイ商品をカゴに入れていく彼女を想像することがあまりにも容易だったからだ。
「よくわからない季節もののミニチュアとか買っちゃうタイプなんですね」
「……なんでわかったの」
自覚なしか。思ったことが彼女に伝わったのか、彼女は目線で意義ありと伝えてきた。


【靴紐】

9/18/2025, 9:34:07 AM