「……」
ザーッ__
塩水が波寄る音の背景に、打ち上げ花火の音が騒ぎ立てる。
〈だいぶでかいのが上がったな笑〉
〈花火綺麗ー!〉
〈見て!あれ星形になってる!〉
遠くから人の声が聞こえる。
『現在、4年振りの打ち上げ花火がこの海に打ち上げられました。皆さん、花火をどうぞ思いきり楽しんでいってください。』
嬉しそうな女性のアナウンスが響き渡る。
海の波紋が壮大に広がる。
「海…」
久しぶりにタンスの奥から出した浴衣と、綺麗に整えた髪型を満足気に見る。
「無駄にしちゃうな、」
海へと足を踏み入れていく。
『間もなく、スターマインです』__
騒がしいはずの外野の音が、私には聞こえなかった。
目に広がる景色は海の中の澄んだ青色。
手を伸ばしても、月は掴めなかった。
海の中から泡が吹き出していく。
私は、そっと目を閉じた。
瞼の裏には見てもいない打ち上げ花火が浮かんできた。
夜凪だった。
音が遠くなって、次第に意識も遠のいていく。
今目を開けるべきじゃないことはわかっていた。
「(浴衣…溺れずらい。)」
『△✕街、夜の海の打ち上げ花火を終了致します』
"夜の海"
8/15/2024, 5:05:15 PM