数十人が乗った電車の中、俺は整えられたスーツに紺色のネクタイを締め、膝の上に少し重たい鞄を乗っけて揺られていた。
しばらく経つと、もう数回は聞いた車掌の声と共に、俺を含めた数人が駅のホームに降りていく。
-時刻は午後の6時。
いつもよりかは早めに仕事を切り上げたからか、まだ夕日が沈む前だった。
自分と同じ社会人だと思われるスーツを着た人々が比較的多く視界に入る。そこに紛れるサッカーボールを持った元気そうな小学生の男の子達。
「この後どっか寄ってかね?」
「いいよ、つか待って。10円持ってない?」
多くの人の足音しか聞こえない静かな駅の階段で、一際目立つふたりの少年。
小学生だった時代なんてもう数年も前の事なのに、少年を見て俺は思わず自分と重ねてしまった。
改札口を通るまで、じっと彼らを目で追っていたが、改札口を通った途端、「せーのっ」という声と共に遠くに走り去ってしまった。
俺は電子音が鳴るスマホの電源を一度切ると、駅からしばらく歩いたところから全力で走り始めた。
少しづつ崩れていくスーツのことなんて気にせず、出来るだけ全力で、周りを見ずに一本道を走った。
到底、どこかで読んだ青春漫画のような綺麗なものではなかったが、夕日に照らされながら、なんだか晴れ晴れとした気持ちで走った。
過酷な社会、複雑な人間関係、必死に頭を下げて謝罪をする毎日。何もかも、全部忘れて。
そうなんだ。
本当は俺だって
ずっと
ずっと
「子供のままで」
5/12/2023, 7:21:56 PM