『嗚呼!リリィベル!聖王カサブランカに対するその侮蔑!万死に値するだろう!』
『オーガスタ様…!いいえ、誓って!わたくしではありません!この白百合の紋章に誓って…決して!』
プラチナブロンドを振り乱しながら男の前に傅く女に、その男—オーガスタ卿は迷いのある声色で告げる。
『やはり”ブルーローズ”の言は誠であったか…』
その言葉に女—リリィはハッと顔を上げた。
『…オーガスタ様!会ったのですか?あの星読の娘と…!』
『リリィ…我が麗しの白百合よ。其方と見えるのは今日が終いとなろう』
その氷のような言葉に、リリィは顔を覆い嘆いた。
(嗚呼なんということ!あの娘に謀られた…!卿はわたくしの言葉など瑣末なものだと思うのね…)
バイオリンの旋律が最高潮に達し、彼女はその場に頽れ慟哭する—…。
「いや、どう考えたってこの女はシロだって分かるだろ」
少し温くなった発泡酒を片手に俺はぼやく。
「もう!静かにして!本当空気読めないな」
クッションを抱き抱えハラハラ行く末を見守っていた—怜が俺をギロリと睨んだ。
「つーかこの二人先週もウダウダしてなかったか?男の方が…」
「オーガスタ卿は、リリィとの身分の差に葛藤してるの!」
画面の向こう側では、惚れた腫れたと二人が押し問答を繰り広げている。
男は女からの愛の告白を聞き、何故か狼狽えている。先週あれだけ言い寄っていたにも関わらずだ。
「いや、どう見たって惚れてんだろこの女。男の方が偉いんだからさ、権力使って…」
分かってないなぁ!と怜は大袈裟に溜息をつき俺を小馬鹿にする。
「ヒロはさぁ、すぐくっ付いて”はい、めでたしめでたし”ってなるの、見たい?つまんないでしょ?彼女たちは真実の愛を手に入れようと頑張ってるの!それに、こういうのはすれ違えばすれ違うほど良いんだから!」
うっとりと能書を垂れる怜に俺は嘲笑混じりに告げる。
「どうでも良いけどさ、なんか頼もうや。腹減ってきた」
俺の呑気な提案に、怜とテレビの中の女—リリィが同時に叫んだ。
「『もう!朴念仁!』」
≪すれ違い≫
10/20/2024, 12:09:13 AM