hikari

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秘密の場所

シンク下の、収納扉が壊れた。
支えていた金具部分と木製の扉部分が乖離していた。
経年劣化が原因だろうか。
扉は爽やかなミントグリーンの色に反して重たく、そして危なかった。ぐったりと下に落ちたまま、柔らかなフローリングにめり込んでいる。
私は扉を治すことができなかった。
正確には、できなかった、のではなく、
したくなかった。
学生マンションのこの賃貸は、
私が学生であるから許されている。
私はこのミントグリーンの壊れた扉が、
壊れたままであるならば、
私はこの賃貸から出られない。
修復しなければならないという課題が、
遂行しないことに安心感を抱いている。
現実は、そんなの関係なく終わりはやってくるのに。
一階北向き1Kの、光の入らない質素な賃貸。
その中の、人の足音が聞こえるキッチン。
壊れた扉のすぐそばにたち、排水溝を眺める。
オレンジ色の光に安心し、それが不快になった頃、
今日は雨なのか曇りなのか晴れなのかすらわからないまま、暗い朝を迎えていた。

3/8/2025, 2:29:50 PM