桐田 藍生

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【終わりにしよう】



「もうここまでだ」
 墓の下であの人が言う。
「気が付いたらぼくの人生の最後の最後まで、捧げてしまったよ。君にあげる時間も無くなってしまった。馬鹿息子の代わりに看取って、埋葬までしてくれたのに。何かを君に残してやることも忘れてしまっていた。非情だね、ぼくは」
 いいえ、貴方は人類の死滅を回避して下さいました。
 貴方の息子達はこの先、幾度となく訪れる絶滅の危機を退けてくれるでしょう。
 だからもう、眠って下さい。
 貴方は人類最高の科学者です。
「そう言ってくれるのは君だけだよ…後にも先にもね」
 あの人が微笑う。
「馬鹿息子達を頼むよ。出来る範囲で構わないから」
 魂に走る最後の電気信号を感じ取る。
 ええ、それが貴方の望みならば、叶えましょう。
 頷くとあの人は最期に、微かな笑みを残した。
 魂の電気信号が完全に消失する。


 ずっとずっと優しい人。
 貴方との最後の約束を叶えるときが来ました。
 

 幾度目かの人工の眠りに着くあの人の息子達。揺り籠に繋がる無数のケーブルに手を掛ける。
 ぶちぶちぶち、とナノファイバーカーボン製のケーブルを、万感の思いをこめて丁寧に引きちぎった。
「サヨウナラ……悪魔」


 さあ、世界中の愛しい生命よ。
 星を何度も作り変えた悪魔はこの手で始末した。
 あの優しい人の願い通り、自由に生きて死ね。
 世界はもう繰り返さない。
 
「終わりにしよう」



7/15/2024, 1:59:38 PM