Episode.41 見つめられると
そんなに見つめられるとどうしていいのか分からない。
蒼葉は真っ黒な大きい瞳で、頭のてっぺんからつま先まで眺めた後、僕の顔をまじまじと見つめてくる。
「えと、どうかな…?」
僕は目が合う度に吸い込まれそうになる。
思えば、蒼葉に惚れたと自覚した日も、あの真っ黒な大きい瞳で見つめられた時だった。
蒼葉は高二の春に転校してきて、それからは席が近いのもあってよく話すようになった。
腰まで伸びた黒く艶のある髪、重ための前髪に、綺麗に切り揃えられていた姫カット。
宝石のように真っ黒な大きい瞳と白い肌。
そして、僕と話す時だけに見せる八重歯の見える笑い方と、繊細で透き通る硝子のような声。
既に惚れていたのかもしれないが、僕はまだ気づかないフリをしていた。
しかし嘘をつけなくなったのは高二の冬、しんしんと雪が降る公園でのこと。
寒気で薄紅に染まった頬をマフラーから覗かせた。
ただ振り続ける雪の中、蒼葉は真っ黒な大きい瞳で僕を見つめながら、世界で一番甘い声で囁いた。
「私、楸くんのことが好きよ」
全身に電撃が走ったようにジリジリしたのを覚えている。
クリスマス一週間前、僕と蒼葉は恋人になった。
_____あれから5年後が、今の僕達である。
「ふふっ、すごく素敵ね…見蕩れちゃうわ」
「照れるなあ…蒼葉も、今日が一番素敵だよ」
きっと世界で一番の幸せ者だ。
「ねえ蒼葉、愛してるよ」
「私も、楸くんのこと愛してるわ」
僕達の薬指に光るダイヤのリングが、そう言っている。
3/28/2024, 2:57:27 PM