「夏の匂い」
怖い夏の匂いのお話をします
祖父は 山深い中腹辺りに 道と水道と電気を通し 家を建てて 住んでいました。
農園の経営で 山を幾つかと 川と 小さい滝も所有していました
そこは 亜熱帯の異国の 深い山の中の 本当のポツンと一軒家でした
月が無い夜は 漆黒の闇が山に広がります
人間は 全くの闇の中を歩くと 方向を失って同じ所をくるくると円になって歩くそうです
家の周りには もちろん 毒蛇が ウヨウヨいます
世界でも 3位ぐらい強い毒だそうです
ここには あり過ぎるぐらい いっぱい何かがあります
人間の会話よりも うるさく鳴く虫の声 シュルシュル動く何かの音
山も ぼ〜ん とか ほ〜んって たまに音を出します
湿気を含んだ 土と 大きい木と 草と石の 混る周辺の匂いの中に
絶え間なく咲く 多種多様の花の香りが漂っている
、、、
お待たせしました
話はここから 怖くなります
ちょうど 私が6歳ぐらいの頃の話です
私には、大人に見えない想像上の友達が二人いました
まあ 小さい子がよくする事です
その日も 山の中でその子達と遊んでいたらいつの間にか 日が暮れ始めました
早く帰らないと 山は真っ暗闇になってしまいます
なのに さっきから 何やら知らない道を歩いている様です
段々と闇が迫って来て 道も見えづらくなって来ました
そうすると 人は嗅覚が敏感になって来ます
目を閉じると 匂いが道を教えてくれる事に気がつきました
土の匂いが 伸びて行く道を教えてくれるし
木の葉っぱの匂いが 家の近くに生えてる木を教えてくれる
多種多様な花の匂いも いつもの場所を教えてくれる
でも突然と
ゆらり はらり はらり ゆらりと
道を渡りながら私の近くに漂って来た
花の匂いに私は、
やったー!!
この匂いは 家の庭でばーちゃんが育てている花の匂いだー!
家に帰れるー!
その方向に 向かって走り出した私を
その二人の友達に引き戻されました。
よく見ると 崖っぷちに立っていて
もう一歩で落ちる所でした
その後 どうやって帰ったのかは覚えていませんが
帰り道に 友達と話をした内容は今も覚えています
その花の名前は、山ゆりで 崖に好んで生えているそうです
なので 山の中で 百合の花の匂いがしたら 崖があるかもしれないからね
覚えといてねって二人に言われました
もちろん 夜道を帰った私で 家は大騒ぎでした
二人の友達とはそれっきりです
こんな所に子供がいる訳がないでしょう!
もう遊んじゃダメです!
と言われる始末です
これは
夏の日の 私の命を助けてくれた幻の二人の友達と
私の命を奪うはずの 山ゆりの匂いの話です
7/2/2025, 1:18:41 AM