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「手袋の起源は古代ギリシャにまで遡る。美と愛の女神ヴィーナスがいばらの棘が刺さらぬよう手袋を嵌めたという記述がホメロスの作品で記されていた。また中世では騎士が相手に向かい手袋を投げる事で相手との断交の印として使用されていたのだという。
そこから現代に至るまで我々と手袋は常に共にあった。そう、時には防寒用として、時には滅菌用として、時には防具用として―――。
故に、我々の歴史は手袋無しでは語り得ないと言っても過言では無いだろう」
四ノ宮七星(しのみや ななせ)はそう言って持っていた本を閉じた。勿論、手には手袋が嵌められている。
「…お前、さすがに家でも手袋はやりすぎだろ。暖房つけてモコモコ靴下も履いて毛布もかぶってるじゃねーか」
東城翔(とうじょう かける)は少し呆れたようにそう言った。
それを聞いた七星はムッとした顔で翔を見る。
「何も分かっていないな。寒くて仕方が無い」
「お前…そんな寒がりだったか…?まあ、確かに今年はかなり寒いが…」
「常に体中が発火してそうなお前と比べて俺の熱伝導率はそう高くは無いんだ。何かでこうして温めていないと寒くて仕方が無い」
どこか不機嫌そうに七星はそう言うと頭まですっぽりと毛布に潜ってしまった。
それを見ていた翔の目がスッと細くなる。
彼はゆっくりと七星の毛布を両手で解くと、驚いて何か言いかけた七星の口を指で塞ぎ、意地の悪い笑みを浮かべて、言った。
「―――なら、俺が温めてやるよ」
そうして翔は、七星の手袋を己の指を絡め、じっくりと蕩けさせるように外していく。
テーブルに置かれていたグラスの中に入っていた氷が、溶けてカラリ、と高い音を立てた。
12/27/2024, 12:08:08 PM