風のいたずら
『キャア…あ?!』
思わず首を45℃に傾けた耳元を猛スピードで飛び去っていくものが視界の片隅に映る。
ヤベェ、ヤベェよ、俺の反射神経神ってる!
ドキドキと胸打つ鼓動に手を当てて冷や汗を拭った。
『ごめんなさーい!』
振り返った先にバタバタと足音を立てながら駆け寄ってくる姿が見えた。
『大丈夫ですか!すみません!』
平謝りする目の前の子供は年頃は小学生だろうか。
『いや、大丈夫だけど…』
子供の手前取り乱すようなカッコ悪い真似は出来ない。
大人として、男として、さっきの絹を裂くような悲鳴をあげたことも忘れて貰いたい。
フッと髪をかきあげて平気なふりをした姿がツボったようだ。目の前の子供がかっけーと言ったのを俺は聞き逃さない。そうだろう、俺はかっこいい。
『フリスビーか?』
『そう!なかなか上手くいかなくてさ』
手首をクイックする真似をしながら唇を尖らせて投げる真似をする子供にふーん、と思う。
これはカッコいい大人としての姿を見せてやるべきか。
『それ、貸してよ。教えてやるよ、投げ方』
斜め45度の右上の空を眺めながらぶっきらぼうに言ってみる。空が青い。良い風だ。
『マジ?!にいちゃん出来んの?!』
頬を赤らめて嬉しそうにうおおおおと叫び、ピョコンと飛び上がったと思ったらフリスビーに駆け寄る後ろ姿にこちらも俄然やる気になった。
いっちょ漢を見せてやる。
『よし!こっちに投げてみろ!!』
ばっちこい、と背負っていた鞄を草むらに投げ捨てて受け取る体制をとる。
パチンと膝を屈めて叩いた。風上からの風は強い。
『いっくよー!』
目の前の子供は嬉しそうにフリスビーを大きく振りかぶって…
『いけぇぇぇ!!』
力一杯こちらに向かって振りかぶる。
フリスビーは縦に向き、追い風に煽られて勢いよくこちらに向かって飛んで…いや、勢いが良すぎな…
スコーン
見事に俺の額にぶち当たった。
『いってええええ!!』
『にいちゃーーん!』
うずくまって頭を抱える俺と慌ててこちらに駆け寄る子供。
声高な2人の叫び声は風に乗って空高く何処までも遠くに響いていった。
1/18/2025, 1:29:15 PM