もう一度

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踊りませんか?

「踊ってる人間はバカだ。
くるくるくるくる三半規管を鍛えるためだけに回って、凄いって拍手が欲しいだけなんだから。大抵はこちらはおおっとも思わないのにおざなりな拍手を送んなきゃなんねぇんだ。なんで金払って拍手送んないといけねえんだよ」
「そんなことないって。最近は色々面白い踊りもあるんだから。何もわかんないから馬鹿にしてるんでしょ。かわいそう」
「なに?俺の目に入らなかったらそれは俺の世界にないものだ。知らんからそんなもんはない」
「もー……」 
 若い女性の顔が明るくなって、思いついたように老年の男の手を握った。
「じゃあ、おじちゃんもバカにしてやろ。踊るの見るのが楽しくなくても、踊っちゃうのは楽しいでしょ」
スマホが軽快な流行りの音楽を流し出した。
「そんな、俺はダンスのすてっぷもりずむも知らないぞ」
「難しく考えないでって。おじちゃんいわくバカな私が、一緒にバカになっちゃうだけだから。あはは、ゾンビみたいだね。私が馬鹿ゾンビに感染させちゃうよ」
「そんなこと、誰が」
「可愛いの一緒に踊ろ?可愛い私がおねだりしてるんだから、いいでしょ?」
グッ……っと息を詰めた仏頂面の男が、きらきらのエフェクトと踊っている映像がネットの海に流れた。

同じ年の男がそれを流し見た。
「ケッ、バカみたいに踊りやがって。こんなの踊ってる人間はバカだ」
そう積み重なったゴミ袋の上、スマホを放り投げた。

10/4/2023, 10:54:34 AM