「スマイルください!」
時が止まった。間違えた。いや、間違えてない。
朝、いつも通りに片思いの彼を待ち伏せして、顔をちゃんと確認してから言ったもの。
「今時ファストフード店でも言わないだろう」
ゴミを見るような目で私を見る彼……が好き。すごくカッコイイんだ、本当に。
眉をひそめて不審者から逃れるように彼は早足で歩いていく。
「待って待って!笑顔が見たいんですけどー!」
「君もしつこいな。さっさと他を当たれ」
「ざーんねん!私はあなたがいいんですー!」
去ろうとする彼の前に回りこんで退路を塞ぐように両手を広げた。その瞬間。
バサッ、と音がして雪の塊が降ってきた。直撃。木の枝に積もった雪が、重みに耐えられずに私に降り掛かったのだ。
「最悪……」
頭やマフラーが雪まみれ。せっかく髪を綺麗に結ったのに、雪を払ったらぐしゃぐしゃになっちゃった。
ゴホン、と咳払いが聞こえて彼の方を見ると、片手を口元に当てている。
「あ……笑った……?」
「笑ってない」
「え?今笑ってたけど?笑いましたよね?!人が!雪まみれに!なってるのを見て!」
「うるさい」
詰め寄ると、ハンカチを顔に押し当てられて「ぶふ」と声が出た。もっとかわいい声は出なかったの?私!
「……これは情けだ」
そうぶっきらぼうに言うと背中を向けた。なんだ、やっぱり優しいじゃん。
それがとても嬉しくて、私は自然と笑顔になる。
「ちゃんと返せよ」
「ありがとう!大好き!」
彼はもう真顔に戻っていた。本当はもっと笑っているところが見たかったけど。
今は私のスマイルの押し売りで、勘弁してあげようかな。
【スマイル】
2/8/2024, 4:47:54 PM