詠人

Open App

夜の海が好きだ。
誰もいないし周りは暗いのに水面はどこか光っているように透き通っていて、昼間とはまるで違う
そんな海の水面をそっと撫でる。波紋が広がっていく
なんて綺麗なんだ、と。
打ち上げられたサザエに手を伸ばして、なんとなく持ち上げてみる。美しい、ただそれだけを想った。
そのまま水面へ近づく。
靴を脱ぎ、サザエと自分の額を付け、黄昏てみる。
ありがとう、みんな
そう呟き、私は少しづつ地平線へと足を進める。少し怖いけど。こんなにも広い海ならきっと私のことも受け入れてくれる。
首の辺りまで水面が来たところで、勢いよく潜り更に先へと進んだ。もう足が付かない。
こんなところでいいだろう。
私は
顔を下向きにし、サザエを抱えて
それから波に抗わなかった。

8/16/2024, 12:47:46 AM