NISHIMOTO

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意味もなく俺の手を取る男じゃないと知っていた。
ちか、ちか。短い閃光が瞬いて。
「信じているからな」
俺は何を返せばいいかは頭に浮かばなかった。
その期待に応えられない。やめてくれよ。そんな、大切な物を預けるような力強さで見ないでくれ。きらめかしい瞳をこっちへ向けないでくれ。応えられない。無理だ。絶対に、応えられないんだって!
いま心から溢れるがままにそう怒鳴っても良かったけれど、しない。できない。
「お前にしか頼めないんだ」
「や、やめてくれよ――」
もう一度骨がきしむほど握りしめられて閉口した。
じっとりとかいた汗が冷えていく。別れの予感が忍び寄り、俺たちの手を解いて彼を攫って行ってしまう。
「なあ、頼むよ、親友」
うるさい! 動けない俺を置いて、大事な約束も託して、一人で行ってしまう奴が親友でいてたまるか。お前なんかただの知り合いだ!
聞き入れたくない。嫌だ。耳を塞いで体を丸めて、一人泣いていたかった。
けれど結局いつものように諦めを口にする。
「……わかった」
俺に誰よりも深く楔を打ち付けて、あいつは俺の元を去りながら満足そうに頷いた。そして背中を向けたら二度と振り向かない……。
その記憶を十数年のうちに何度も夢に見ていた。
もう少し経てばこの夢は終わる。きっと俺は湿っぽい布団から起き上がって、朝食を用意する。その頃にはこの夢も微かになって、しかしなお掌に残っているような温もりを追いかけようとして、あの子を起こしに行く。知り合いの忘れ形見は体温が高いから。
強い閃光はもうずっと昔の思い出だ。唯一覚えていた刹那すら夢は朧気で、何一つあいつのことを語り聞かせられない俺は、もう親友には戻れなかった。
戻りたいと思うことすら許せなかった。

4/29/2023, 9:52:53 AM