権力者のタワーでは大体の時間が定められている。ユートピアにはない時間を大体推定で計っているらしい。人間界と同じような時間の流れにしているらしいと誰かが言っていた。
そして、七と十二と十九の時にご飯が出る。別に食べなくてもこの世界では生きていけるが、食べたいのなら食べてもいい、そんな娯楽的な扱いだった。
さて、そんなこんなでご飯を食べたボクは、デザートにあったプリンを持って演奏者くんを探していた。
ボクはプリンが嫌いなのだ。黄色いところは甘すぎるし、黒い部分は苦すぎる。中間ぐらいが欲しい。
「⋯⋯⋯⋯権力者?」
後ろから声がかかり、振り向くと演奏者くんが立っていた。ボクのことをまるで何か変なものを見るような目で見ている。
「演奏者くん」
「⋯⋯⋯⋯どうしたんだい、その格好」
彼に言われて、そういえば着替えたんだっけ、と気づいた。
いつもの格好とはほど遠い、とまではいかないが、白色のTシャツに、黒色の長ズボン。靴だけがいつもと同じもので少しばかり浮いている。
「あ〜、えっとね。もうそろそろ寝ようと思って」
「違う」
彼はボクの方に来ると、首の辺りに触れた。
「なんだい、これは」
その時にようやっと識別番号が刻まれている首輪が襟で隠せず丸見えであることに気がついた。
しまった、なんてことが瞬時に頭に浮かぶ。とんだ大失態だ、これは。ボクが偉い立場ではないことが分かってしまう。慌てるようにボクは言った。
「⋯⋯権力者であるという証明だよ。君とボクが立場が違うことを示すためのやつ」
「⋯⋯⋯⋯首輪、じゃないかい?」
「チョーカーだよ!! 全くもう、君ってやつは」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯そう、なのか」
全く納得してなさそうな顔で彼は呟いた。
「あ〜、もう! これ、君にあげる! じゃあね!」
ボクは彼の手にプリンカップを握らせて、さっさと退散した。
それにしても、彼が首輪に触れた時、心臓が大きく鼓動した。
⋯⋯⋯⋯好きな人にあんな近い距離で触られたら、そうなるのも当然だけど。
6/12/2024, 3:32:45 PM