『言葉にできない』
懐かしい夢をみた
朝6時30分、台所からの母の声に起こされる
寝ぼけ眼の私は、緩慢とした足取りで洗面台へと歩いて行く
冷っこい水で顔を洗えば、それが気付けとなっ
て意識がハッキリとした
そのまま歯を磨いたら台所へと向かう
歩く度に少しギシギシと軋む廊下を、美味しそうな匂いに釣られるようにフラフラと進んだ
台所の扉を開ければテーブルには既に朝食が用意されていて、母が私を見ながら『おはよう』と笑う
私も何だか嬉しくて、笑いながら『おはよう!』と返して席に着く
毎朝交わす『おはよう』の挨拶が、私は何故か大好きだった
1回言っただけじゃもの足りなくて、意味も無く2回3回と『おはよう!』『おはよう!』と繰り返す
その度に母も優しく『おはよう』と返してくれたんだ
そうして『おはよう』に満足した私は、目の前の朝食に意識を戻す
卵焼きにウインナー、大根のお味噌汁に焼き鮭の切り身、そして少しの漬物とご飯が並んでいた
焼き鮭の切り身は何時も母と半分こにして食べていた
母と二人、手を合わせて『いただきます!』
食べ終わった私が『ご馳走様でした!』と言ったら、母は決まって『お粗末さまでした』と返してくる
だから何時も私は『全然お粗末なんかじゃないよ!』なんて笑いながらまた言葉を返したんだ
懐かしい夢をみた
込み上げてきたものが何なのかは分からなかったが、最後に残った感情が自分に対しての怒りである事だけは確かだった
だから私は力一杯に……自分の頬を殴ってやったんだ
4/11/2023, 1:22:28 PM