その出会いは突然に⋯⋯けれども私は運命を感じてしまった。
在り来りな言葉だと自分でも思うけれど⋯⋯彼との出会いを例えるならその言葉以外に思い付かなかったのだ。
私の世界は明けない夜の世界。
両親曰く、私の体は特殊な構造で、日の光に触れると溶けてしまうらしい。
だから生まれてからずっと、この暗くも美しい世界しか知らない。
ある日私は海へと出かけた。
自転車で30分位の場所で、適当な所に自転車を止めて砂浜を散歩する。
靴の中に入る砂の感触と波の音を聞きながら、なんの目的もなくただ夜空を見るだけ。
その日は月のない夜だった。
所謂星月夜というやつで、月がなくても明るい夜だった。
そうして気が済むまで散歩して、帰りにコンビニに寄り好きなスイーツとアイスを買って帰る。それが私の日常で、今までも⋯⋯そしてこれからも変わらないと思っていた。
『こんにちは、今日は星の綺麗な夜ですね』
そう言って話しかけられて、驚きながらも返事をしたのを覚えている。
人と話すのなんて主治医が両親以外になかったから、凄く緊張して⋯⋯その時何を話したのかあまり覚えていない。
でも1つだけ覚えているのは、彼とまたここで会う約束をした事。
その日から私達はこの砂浜で話すようになった。
彼は日のある世界の事を、私に教えてくれる。
自身の仕事がどういうものなのかとか、この間行った湖が綺麗でそこに咲いていた花の写真を見せてくれたり。
それはとても明るくて色のある世界。
夜も綺麗だけど、日の光に照らされた世界はとても鮮やかに見える。
私もその世界に行きたいと思った。でも、体質上それは出来なくて⋯⋯どうして私は普通に生まれられなかったんだろうとはじめて悔やんだ。
大好きだった夜の世界。でも、日の光を⋯⋯それに照らされた世界をこの目で見てみたかった。
だから私は―――彼と両親と主治医に手紙を書いて彼への手紙だけを鞄に入れ、いつもの海へと向かう。
彼との逢瀬を楽しみ、いつもなら帰る時間なのに帰らない私を、不審に思った彼が言う。
もう、遅い時間だから危ないよ。送っていくからそろそろ帰ろうって。
でも、私は首を横に振る。
そして鞄から手紙を出して彼に渡し、このまま朝を見るのだと告げた。
驚いて止める彼に、私は笑顔で答える。
『きっと夜の世界しか知らなかったら、あのまま何も知らずに過ごしていたと思う。でも、このまま生きていても、何れ両親も主治医も私を置いて居なくなるでしょう? 残された私は一人では生きていけない。ならせめて憧れた世界を見て死にたい』
良くなる保証のない体質だった。だからこそ、せめて願いを叶えて死にたかった。
『僕がずっと側にいる。君の最後まで共に歩むから、どうか僕と生きて欲しい』
私を強く抱き締めてそう言った彼に、結局私の決意は崩れ去り⋯⋯家に送られ、朝が訪れる前に眠りについた。
それから彼は私が寝ている間に、私達の事を両親に話したらしく、親公認で夜の散歩に出かけるようになった。
月の綺麗な夜に見に行った桜並木だとか、少し暑さが和らいだ日に行われたお祭り。
紅葉の絨毯を2人で歩いたり、珍しく積もった雪で遊んだり。
沢山の思い出を2人で作っていく。でも私の中で1番の思い出は、あの星月夜の出会いで⋯⋯今でも月のない星の綺麗な夜に思い出す。
繋いだ手の温もりを感じながら、あの日死ななくて良かったと―――止めてくれた彼に感謝しながら、今日も夜の世界で星空を眺めている。
4/20/2025, 2:40:19 PM