喜村

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 誰かが言った、愛があればなんでもできる、と。
 そんな綺麗事がまかり通るものなのだろうか。
鈍く光る刃を片手に私は彼の亡骸を見下ろしていた。
 私は彼を愛していた。愛おしくて仕方がなかった。確かに、愛があればなんでもできるのかもしれない。人を殺めることだって。

 私が大好きだった彼氏が浮気をしていたのを発覚したのは、一月前のことだった。
奪った女が憎くて仕方がなく、始末をした。
 美人でも可愛くもないじゃない。こんな女のどこに惚れたの?
事切れた女の顔を足蹴にしてやる私。
 その現場を大好きな彼氏に見られた。
信じられないといった絶望的な表情で見られた。
 私は愛があったからこそ、この愛を踏みにじられないように片付けただけなのに。
 彼は奇声を発して私の前から逃げようとする。

……どうして逃げるの?

 私は彼の亡骸さえも愛している。
愛があればなんでもできたけれど、やっていいことと悪いことの区別もつかずに、なんでもやってしまう。
 優しく包み込むように、息が途絶えた彼を抱き締めた。ずしりと重い、温もりはない。
「はぁ、やっちゃったなぁ」なんだか笑えてくる「ずっと一緒がいいなぁ、愛してるから、ね」
 私は片手で彼の血にそまった刃を握りしめ、首につきつけ引き裂いた。


【愛があればなんでもできる?】

5/16/2023, 11:14:57 AM