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彼女は俺に応えてくれた神様みたいな人で、彼女に出会ってから頭の中は彼女の事で埋まっていた


朝は彼女よりも早く起きて、少し贅沢な朝食を作り、穏やかに眠る彼女にそっと声をかける
向かい合って朝食を食べ、微笑む彼女に常に胸が騒いだ

朝食の後は彼女と小さな畑で野菜の収穫
近い内にもう少し畑を広げて彼女が好きな野菜を植えよう

昼は共にキッチンに立ち、彼女の好きな食材を沢山使って昼食を作る
満腹になって、またうとうとし始める彼女を視界に入れながら、彼女用のバランスの取れた夕食作りと自分用に夕食の残りで手早くサンドイッチを作る
とろんとした顔で外を眺める彼女に声をかけ、しっかりと施錠して仕事に出掛ける

夜中に帰ると眠る彼女の顔を見て、ごちごちに固まった仕事の疲れがするすると解けたようになくなった
そうして優しくて温かい彼女の隣で眠った

穏やかで幸せな日々を送っていた

ある日、弁当を作って町の外れにある小高い丘の上に広がる花畑に行った
こんな事を出来るようになったのも全て彼女のお陰だ
今の季節は丸くて可愛らしい薄紅色が一面染め上げていた
何処からか、微かに甘くて馨しいの香りが香っている

彼女が花を愛で、ふわりと香る空気の中で目を細めるのを見て、嗚呼こんなにも美しい景色は見た事ないと本気で思った
いつまでもこんな日々が続いて欲しいと、信じてもいなかった神に希った

でも、彼女は俺の前からいなくなってしまった
予兆はあった
何度も

彼女が不安気に俺を見る事が増えた
外でも家でも手を繋ぎたがった
眠りが浅くなり、日中ぼんやりしている事が多くなった
何度も俺に何か言おうと恐る恐る口を開いては「なんでもない」と笑った

それらの予兆を俺は恐くて見ないふりをした
そんなはずはないと

俺も眠れなくなって、彼女を繋ぎ止める方法を調べてみたりしたが、都合良く見つかるはずもなく、彼女はいなくなってしまった

沈む日々を過ごす時間も勿体なくて、彼女を連れ戻す為にやれる事は片っ端からやった

色褪せた景色に鬱々としながら、いつの間にか出会った時の彼女の年齢を追い越した

時間はかかったが、もう一度彼女を迎える準備は整った
今度こそは彼女を失わない
必ず繋ぎ止めてみせる

もう一度、あの花畑に
共に


お題「花畑」

9/18/2023, 10:52:04 AM