かたいなか

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前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこか別の世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこは世界間の調整、運行、航路整備等々、ともかくいろんな仕事をしておったのですが、
中でも、主要業務複数個のうちのひとつに、チートアイテムの保管と管理がありました。

滅んだ世界のチートアイテムを回収したり、
魔法道具が別の世界で悪さをせぬよう保管したり、
場合によってはそれらのレプリカ、イミテーションなんかを作って業務を効率化したり。
ともかく、いろいろやっておりました。

前々回あたりのおはなしで登場した「眠気を誘うフローリング:イミテーション」なんかも、れっきとしたチートアイテム。
フローリングの範囲内に足を踏み入れた者の眠気を誘い、ぐーすぴ、かーすぴ、寝かしつけます。
オリジナルのフローリングの、効果も出力も全部落として、使いやすい模造品にしたハズ……
なのですが。

管理局に保管されるにあたって、
保管用の情報を登録して、保管場所も決まって、
フローリングの効果もテスト済み、
さぁ、あとは収蔵庫に迎え入れるだけ!
と思った直前で「待った」が入ります。

なんでもこの「眠気を誘うフローリング:イミテーション」、フローリングに足を踏み入れた者の眠気を誘うという効果をそのままに、
ただ効果の強さだけを小さくして、
使いやすさを念頭に作られたのは良いものの、
後々に、まさかの衝撃的事実が発覚。

『使いやすさを第一に調整したら、効果を弱くし過ぎて1回こっきりの使い捨てになっちゃいました』

『なんなら1回こっきり、そこで使ったら、
そこの底にくっついて、ほぼほぼ動かなくなっちゃう不具合が、実は発生しておりました』

『再調整した「フローリングVer.2」を送ります。
最初のVer.1を、なんとかして廃棄してください』

『なお焼却処理の場合、一気に全部燃やすと、
眠気を誘う効果が気化して、周囲をいわゆる、眠りの城にする可能性があります。
ぜったいに、生物のチカラで一度、細かくして、破片を少しずつ焼却してください』

<<破片を少しずつ焼却してください>>

さあ、お題回収といきましょう。
フローリングをカリカリ、カジカジ!
かじり放題の「special day」。
魔法のチカラを持つ木材の解体を任されたのは、不思議な不思議なハムスター。
ビジネスネームを「ムクドリ」といいました。

――「んんー、ハムスターの僕としては、遠慮なく木材を徹底的にかじってくれって、
そりゃもう、まさしくspecial dayだよね」

カリカリカリ、カジカジカジ!
とっとこムクドリ、ただ「木材を徹底的に細かくしてくれ」とだけ言われたので、
何の疑いも持たず、廃棄指示のあったフローリングを、本能そのままに削ります。
日頃、ケーブル噛むなだの、家具壊すなだの、
あれこれ言われてフラストレーションが、バンバン溜まりっぱなしだったムクドリなのです。
「めいっぱい削れ」と言われたら、そりゃもう。

「んんん、かじり心地のすごく良い木材だ。
あんまり心地良過ぎて、 よすぎて、
なんだか、ゆめごこち、ゆめのなかの きぶ ん」

カリカリカリ、カジカジカジ!
順調に「眠気を誘うフローリング:イミテーション」を細かくしておったムクドリです。
ですが、さすが「眠気を誘うフローリング」、木材をかじりたいハムスターの本能をもってしても、
段々、だんだん、本能に追いつかないくらい、
ムクドリに、眠気が迫ってくるのです。

「ああ すぺしゃる でい」
残り半分の木材を残して、
とっとこムクドリ、こてん!眠ってしまいました。

ぐーすぴ、かーすぴ。とっとこムクドリは夢の中。
ですが、フローリングを廃棄してもらわなければ、困ります。寝ている場合じゃないのです。
「んん、もう、かじれない……」
ムクドリとしては夢の中でも、木材をかじっておるようですが、実際は完全にノビてます。

どーすんだよ、 どーしよっかぁ。
ムクドリに処理を頼んだ局員、顔を見合わせまして、ひとまず福利厚生部の医療・医務課に連絡。
ムクドリに悪い影響が出てないか、一応、検査してもらうことにしましたとさ。

7/19/2025, 7:58:26 AM