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「終点だよ。」


頭上から声がした。
「いや、ここまだ通過点でしょ。」
僕は答えた。
「いや、終点だよ。 君がそうしたんだ。そうなるように人生を組み込んだのは結局君だよ。」
訳の分からないことを言う少し見覚えのある顔が物言いをする。
「僕は生憎スピリチュアルじゃないからね、君が何を言っているのか分からない。」
少し皮肉を込めて言ってみた。
「この電車が今動いていないのが、証拠でしょ。」
思わず吹いてしまうところだった。 煽ってみたのにも関わらず事実だけを淡々と言う人間は、少し苦手だ。
「それは、確かにそうだね。 」
でも僕にはここを終点にするには、少し早いと思ったのだ。 まだ2駅分くらいしかきっと走っていないのに、ここの設計者はどれだけ裕福考えを持っていたのだろう。

「さっきはふっかけて悪かったね。 少し遊びたかったんだ。じゃあ僕はここで降りるから、話し相手をしてくれてありがとう。さようなら。」
「行くの?」
袖を引っ張られよろけてコケてしまった。 僕の体はこんなにも脆いものだったか?
「君が、、行けと言ったんだろう。」
体が少しずつだるくなり、脇腹が酷く痛む。
「そうだけど、そうじゃないの、」
彼女が何を言っているのか、全く分からなかった。
「僕もここで降りるのが最善だとは思えないんだ、何故かわかるかい?」
知ってるわけも無いのに、返答を待った。
すると彼女は僕の目を真っ直ぐ見て言ったのだ。

「まだ生きたいからよ。」

目が覚めた頃にはもう「君」は居なかった。あの車両での君の袖を掴んでいた掌はいつの間にか、僕の手を優しく握ってくれていたのだ。
「君が、助けてくれたんだね、」
すっかり固くなった手を誰かが包んでくれているかのように、僕は慣れた手つきでナースコールを押した。

8/10/2023, 3:00:16 PM