三日月

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逆さま

パンをかじりながら登校していたら、曲がり角で男女がぶつかって··········そんな出会いが存在する訳ないのに、姉が買ってくる少女漫画を読みながら育ってしまった陰キャな僕は、そんな出会いがあれば良いのにと少女のような夢を妄想しながらなんの変哲もない日常を過ごしていた。

そんな僕も中学を卒業し高校生となり··········。

家から高校までは電車で通う、幸い家から駅までが徒歩数分のなので歩いて行ける距離ではあったけれど、今日は珍しく寝坊してしまい、クリームパンをかじりながら家を出て走ることになってしまった。

急いでるのに食べることないだろって思うかもしれないけれど、僕は食べずにやっていけないので、家を出る時しっかりパンを手に持ち走り出したのである。

そんな僕は、両手が塞がらないように口にくわえて走っていたので案の定曲がり角で人にぶつかってしまった。

「す、すみません··········」

加えていたパンを右手に持つと、そう言った後まさかのシチュエーションに僕は何だか恥ずかしくなり、頬を赤らめながら目の前にいる女性に謝る。

そもそもこんな展開は現実には有り得ないのだ··········そもそも、パンを加えた女の子が走ってきてぶつかるシーンに憧れていたのに、パンを加えていたのが男である僕の方だったというシチュエーションだっただけに、余計恥ずかしさが増してしまい··········。

「大丈夫だよ。  君は大丈夫·····って、あれ、それ私と同じ制服じゃん…………あっ、それに今 思いだしたんだけど、私学校学校の廊下で君のこと見かけたことがあるよ··········確か隣のクラスでしょ」

よく見ると彼女と僕は同じ制服を着ている、どうやら同じ高校に通う生徒のようだ··········。

「そ、そうです  良く覚えてますね、僕は一年の|栗山高貴《くりまやこうき》と言います··········」

「私は|里田沙友理《さとださゆり》私も一年生だよ、まさかパン加えた男子とぶつかるだなんて1ミリも思ってなかったわ」

「アハハ、そうですよね、本当にすみません!」

「ねぇ、これも何かの縁、折角だし私達今日一緒に登校しようよ、ところで君は何中?  私は第三中学校だよ、駅迄距離があるから自転車来てるの」

「僕は第一中学校です」

「えっ、良いなぁ··········それなら駅近いよね」

「はい、駅まで数分で着きますね·····でも今日寝坊しちゃって··········里田さんも寝坊?」

「違うよ、途中で自転車パンクしちゃってさ、一旦家に戻って予備の自転車できたから遅くなっちゃった」

そんなたわいもない話をしながら登校した僕達は、次の日からもこれをきっかけに一緒に登校するようになった。

そして、夏休みが来てから僕が登校中に里田さんに告白すると、「良いよ」の返事を貰えて付き合うことに。

彼女の誕生日は四月だったようで、もうとっくに過ぎてしまっていたので、今年のクリスマスに何かプレゼントしようとお思った僕は、夏休み中は彼女とデートしたりもしながらバイトにも励むようになり、陰キャだった僕の高校生活はいっきに楽しいに変化していった。

その変わりように一番驚いているのは身近な家族で、中でも姉は凄く驚いている様子。

「あんたさ、雰囲気から服装からすっごい変わったね」

「そ、そうかな··········」

「そうだよ、今迄オシャレにも興味が無いって言うの··········見た目も気にしてないようだったし、自分の匂いとか意識したこと無かったじゃん、それなのに、髪型や口臭とかにも気を使い出してさ··········」

いや、以前の僕ってどんな風に思われていたんだよ!!

自分でも驚く程に、姉の話を聞いていると、少し前の自分が不潔に思えた。

「私わかるよ、彼女でも出来たでしょ··········」

図星だった。

良く分かるな··········両親は勘づかれてもいないのに、姉貴には何にも隠せないらしい

「うん、まぁね··········」

「お父さんもお母さんも、あんたがバイト始めたことで、社会に出て働くことで身だしなみを気にするようになったから良かったって言ってたけど、私の目はお見通しだったわね  何か困ったことあったら相談してね」

姉はそう言うと部屋に行ってしまった。

でも、僕は、姉に相談に乗って貰うことなんてないだらうと思っていたのだけど、女心が分かるようで分からなかった僕は、結局あれこれ相談に乗ってもらうことに。

もし、姉がいなかったら別れていたかもしれない危機もあったので、いてくれたことに感謝していた。

「あ、あのさまた相談なんだけど··········」

僕は彼女に渡すクリスマスプレゼントに悩んでいた。

性格も明るくなり、クラスに男友達も出来たけど、未だ付き合ってる彼女がいることは話していないので相談が出来ない。

「あのさ、どんなのプレゼントして貰えたら喜ぶかな」

「何を貰っても、彼からのプレゼントなら何でも喜ぶと思うけど、プレゼントの定番としてはアクセサリーじゃないかな」

どうやら、女性はアクセサリーが好きらしい。

僕はネックレスをプレゼントしようと思い、プレゼントを買いに行くことにした。

身に付けるものである以上、当然ながら彼女に合ったプレゼントでなくてはならない、そう思った僕は、男一人でアクセサリーを見て回る。

ところが彼女好みのアクセサリーを探し出すのは簡単なようで実は難しい、彼女の好みを把握してるつもりなのに、僕の決断が無さすぎて決められないのかもしれないけれど、始めてのプレゼントだから、絶対失敗したくなかった。

この日の為にバイトもしてきたのだからと、何日もかけてアクセサリーを探しているうちに、素敵なアクセサリーを見つけることに。

それは丸い円の中にハートが逆さまに向いているデザインのものだった。

サイズも小さめであるそのアクセサリーの説明には、二人だけの「愛」を確かめ合えるモチーフとか書かれている。

そもそも逆さまハートは、お寺や神社でつかわれており、や日本古来から使われている図柄で、猪目(いのめ)といい、魔よけや福を招く護符の意味も込められていた。

僕はそのネックレスを大切な彼女へのプレゼントに最高だと思い、迷わず購入することに。

「あの、こちらペアネックレスですが、よろしいでしょうか?」

(えっ、ペアネックレス…………)

「はい、お願いします」

ペアネックレスだとは知らなかったので、お値段は高校生の僕には少し高めだったけど何だか得した気分になった。

「高貴くんありがとう、私大切にするね」

その後、クリスマスにプレゼントすると、沙友理は凄い喜んでくれたので僕のプレゼントは大成功!

制服の下でもさりげなく身に付けて学校に行けるので、体育以外は僕達はいつもネックレスをつけている。

そうそう、ネックレスには相手の無事と幸せを祈るという意味も込められているんだって。

そんな僕は二人でクリスマスを過ごし後、家に帰ると、姉から聞いて僕に彼女が出来たことを知った家族から
おめでとうのお祝いをされてしまった。

そんなの一々お祝いとか要らないのに··········。

少しばかり照れくさいけど何だか嬉しい!

こんなに明るい家族で良かったと思えた。

来年のクリスマスも彼女と二人で過ごせますように。


12/7/2022, 3:30:59 AM