ストック1

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僕はその日、初恋を経験した
一目惚れだった
散歩で来た、桜のきれいなあの公園で、花びらが舞う中に、その子は立っていた
桜を眺めながら
小6になったばかりの僕と同い年くらいの女の子
話しかけたいけど、見ず知らずの相手に会話がしたくて話しかけるのは、どう考えてもヤバいと思う
僕はそのまま何もせず、ドキドキしながらすぐに帰った

また別の日、同じ公園に来てみたけど、あの子はいなかった
それはそうだ
毎日来てるのでもない限り、あの日、たまたまいた子が、またいるわけがない
僕はなんでちょっと期待したのだろう?
もう桜は散っている
意味もなく公園を歩いていると、僕も持っている、漫画のキャラのキーホルダーが落ちていた
誰かの落とし物だろう
なんとなく拾って見ていると、横から誰かが走ってきた
あの子だった

「あ、あの、そのキーホルダー
わ、私のもので……」

その子は激しく動揺した感じで、僕に話しかけてきた
キーホルダーはこの子の物だったのか
それにしても、こんなに動揺するなんて、内気な子なのかな?
あと、声をどこかで聞いた気がするけど、思い出せない
それに見た目も、なぜか見覚えを感じる
気のせいか?
とにかく、僕はキーホルダーを返した

「偶然だけど、そのキーホルダー、僕も持ってるんだよね
このキャラ、好きなの?」

「え?
あ、うん」

「この漫画、面白いよね」

「そ、そうだね」

やっぱり、なんか動揺しっぱなしだな
あんまり話しかけるのも悪いから、名残惜しいけど、僕は帰ることにした

「ええと、ありがとう」

「うん、それじゃ」


翌日、学校ではあの子と話したことが頭をぐるぐる回って、あまり授業に集中できなかった
休み時間、友達に呼ばれて付いて行った時も、あまり頭が回らず、どこへ向かっているのかもわからないくらいだった
友達は普段、学校の中でも人があまりいないところへ僕を連れてきていた

「あのさ、俺、双子の妹いるじゃん」

「あー、そういえばそうだった
でもなんか、付き合い長いわりには、君の妹、会ったことも見かけたこともないよね、僕は」

そこで何かが僕の中で繋がった
公園にいた子に感じた、見覚えや声の聞き覚えは、そうだ
目の前の友達だ
ということは、あの子は双子の妹だったのか?
だとしたら最強の接点が生まれたぞ!
是非ともお近づきになりたい

「おい、聞いてるか、俺の話?」

「あ、ごめん
ちょっとボーっとしてた
なんだっけ?」

「だから、妹を昔から見てて、ちょっと俺、羨ましく感じてたんだよ」

羨ましく?
なにをだろう?
なぜかちょっと嫌な予感がする

「それで、親に頼んで、女の子の服とか買ってもらって、着てたわけ」

ん?
今、なんて言った?
ちょっっっと待って
この先を聞いたら僕の何かが終わりそうな感じがするんだけど?
この先を聞いていいのか僕は?

「昨日、キーホルダー落として、お前に拾ってもらったやついただろ
頼むから誰にも言わないでほしいんだけど、あれ、俺なんだ」

ああああぁぁぁぁ
終わった、何かが、いや初恋が
あのキーホルダー、僕が君と何年か前に一緒に遊びに行った時、僕の親にお揃いで買ってもらったやつの片方だったのか……!
動揺する僕だったが、不安そうな友達の顔が見えたので、かろうじて崩れ落ちずに済む
僕の事はこの際いい
勇気を出した友達を、僕と普段から仲良くしてくれる友達を安心させないと

「大丈夫だよ
僕も人に知られたくないことのひとつやふたつやみっつ、あるから言わないよ
もしよければ、そのうちのひとつを教えて、秘密をお互いバラさないようにするとかでもいいよ」

「いや、そこまでしなくていい
お前のその言葉で安心したよ、ありがとな」

友達はめちゃくちゃいい笑顔で握手してきた
安心してくれてよかったけど、僕の悲しみはしばらく続きそうだ
きれいだった桜ももう散ったけど、きれいだった僕の初恋も散っちゃったね

4/4/2025, 11:51:24 AM