「良いお年を」
12月31日11:55pm どこからか声が聞こえた
その声に心当たりはなく、聞いたこともない。
スルーしよう。
余計なことは考えたくない、今は仕事中だから。
大晦日に働く仕事ってなんなんだ
そう思っていたが、むしろ休める仕事のほうが少ないんじゃあないか?
僕は電気会社で働いている。
今日は徹夜が決まっている。大晦日だから。
ただ1日が過ぎるだけなのに、意味を持たせるなんてどうなんだよと思う。
いつものようにこなすんだ。ただやるんだ。
一緒に過ごす人はいないが、
この場所からはカーテンの閉まっていない窓から月が見えるし、お金稼いでるし、まー悪くないじゃないか。
これからするのは、0:00ちょうどに電気のスイッチを押すことだ。
だから、秒針の細かい時計と向き合っている。
スイッチを押すと、ここら一帯の電気が消えて花火師たちが花火を打ち上げる。
まさにhappy new yearだ。
0:00になったから押した。
ここから1時間30分間はすることがない。
(はー、花火見えるかな、)
そう思って、窓に近づくと、ビルの周りに人がたくさんいる事がわかった。
(え、なんでこんなに?)
窓を開けて、覗いてみる。人の声が聞こえる。
(あー、神社への道ね、そんなに人気な神社だったのか。花火は、このビルで見えないのか。あー、だから囲まれているのか。)
一通り理解した。
じゃあ花火を見ようっと。
花火は40分くらいで終わった。
明かりは消えてから徐々に明るくなって今はもう元通りだ。
あと40分くらいあるから少し横になろう。
「良いお年を」
何事だ、また聞こえた。
疲れているのか?
目を開けて見回すと窓の外が騒がしい。
空を光が飛んでいる。
もうこんな時代になったのか。
空にドローンが文字を描いていた。
“明けましておめでとう”
“良いお年を”
“良いお年を”のときに、聞き覚えのある声が聞こえた。
デジャブだ。
観客の1人が「良いお年を」と返していたのだ。
不思議だ。僕は少し感動してしまった。
こんなに大勢の中から人が1人存在感を放って一連の流れのことに応えているように見えた。
僕の今までには、僕が応えてやろうと思った。
あの声は、この後に心が動く出来事があることを予知してくれていたのかもしれない。
*作り話
1/1/2025, 8:21:20 AM