谷間のクマ

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《ただひとりの君へ》

拝啓 齋藤雪音様
 寒さが厳しくなってくる今日この頃、お元気ですか。風邪などひいていませんか。
 ……死人にこんなことお尋ねするのもおかしなことですね。
 今年の4月、春輝ともども高校生になりました。最近は生徒会が忙しいですが、俺も春輝もなんとか元気にやってます。なんとか、少しづつ前に進んでいます。
 しかし毎年貴方の命日が近づくと、どうしても筆を執ってしまいます。いい加減やめなければ……、と思ってはいますが、やめれそうにありません。毎年の恒例行事のようになってきてしまっているのです。それだけ、貴方が亡くなってから時間が経ったのでしょう。悲しいことです。
 『亡くなった人の命日に手紙を書いて燃やすと手紙が天国に届く』。こんな話、ただの作り話に過ぎないのはわかっています。ただの気休めだってこともわかってます。でも、筆を執ることをやめられない俺は、貴方から見てもまだ子供でしょうか? もし貴方が天国でこの手紙を読んだなら、俺のことを心配するでしょうか? きっと貴方は心配するでしょうね。貴方はとても優しい人だったから。
 高校生にもなって心配かけてごめんなさい。そして最後に一言言わせてください。
 たったひとりの姉さんへ。いつもありがとう。
敬具
十二月某日 齋藤蒼戒

★★★★★

 過去へ届く手紙。そんなものがあったらどんなに素晴らしいだろう。
 そんなことを考えながら、俺、齋藤蒼戒は天国の姉さんにあてた手紙と、寄せ集めの落ち葉に火をつける。
 パチパチと火の粉が舞い、煙がゆっくりと空へ昇っていく。
「……蒼戒、お前今年も手紙、書いたんだ」
 ゆっくりと空へ昇っていく煙を眺めながら、双子の兄、春輝が呟く。
「……悪いか」
「いや別に。むしろ偉いよ。俺はもう、書くのやめちゃったから」
「……それが正しいんだろうな。俺はいつまでも、姉さんを忘れられないから」
「忘れろなんて言わねーよ。手紙も書けばいいと思う。俺もお前が死んだらそうする」
「……お前の場合俺が死んだらすぐ後を追ってきそうだ」
「ははは、間違いない」
 春輝はそう言って乾いた笑いを響かせる。
「でもお前、追ってくるなよ」
「そいつはできねー相談だな。つーかお前も俺が死んだらすぐ後を追ってくるだろうが」
「どうだか」
 口ではそう答えるが、俺は多分後を追うだろう。
「そんなこと言って、どーせ追ってくるんだろ? だったら俺も死なないようにしねーと」
「だな」
 2人で空に昇っていく煙を見つめてそんな話をする。
 そして俺たちのたったひとりの姉さんへ、最大限の感謝を込めて。
 毎年この日は、そういう日だ。
(終わり)

2025.1.19《ただひとりの君へ》

1/19/2025, 1:10:56 PM