零℃

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降って来た。
慌てて俺は駆け出した。
走りながら、雨宿り出来る場所を脳裏で探す。
ひと気もまばらなこんな片田舎じゃぁ、カフェなんて気の利いた場所なんて何処にもない。

「クソが」

今日はついていないことばかりの俺は、思わず独り言る。

テストの点数は芳しくない。
弁当は量が足りない。
うちは片親だから、料理当番である今日はスーパーに寄らないとならない。

学校帰りにバスを逃した挙句、大粒で降る雨に打たれるとは。
普段なら「そんなこと」と一蹴するそれらが、今は鬱陶しくて仕方がない。

早く帰りたい。

そう思いながら、ずぶ濡れのままスーパーへ駆け込むことを決める。

公園を曲がったところで、不図、大きな傘をさした人とすれ違った。
すれ違いざま、名を呼び止められる。
ぎょっとして振り向くと、それは父だった。

「え、親父。マジか。どうしたん?仕事は?」

「まだ途中なんだけど。お前が帰る頃だし、雨に気付いて、迎えに。」

寝不足顔で、親父はくしゃっと笑った。

嗚呼、そんなことする親父だよ、あんたは。
滅茶苦茶疲れているのに。
滅茶苦茶苦労掛けているのに。

ちょっとしたことでも、いつだって駆け付けてくれるんだ。

テストの点数悪くてごめん。
食い盛りでごめん。
おふくろ止められなくてごめん。

「でも、通り雨だったなぁ。」

そんな思いを他所に、親父はまた笑う。

「帰ろうか。」

「あ、スーパー寄って。」

「おう。今日の晩メシ何だ?」

他愛もない会話。
畳む傘。
日の射し始める空。

雨の通った後、俺の心は晴れていた。

9/28/2023, 5:35:45 AM