村人ABCが世界を救うまで

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ひらりと枯れ葉が舞い、秋の風を感じる午後だった。
山から降りてくる風は丘をくだり、途中の湖で湿り気を帯びてやってくる。
ここは真冬になっても雪はさほど降らない。
山が雪雲を遮るかたちになり風だけ降りてくる。春や夏にはそれは見事な水量の雪解け水が流れてくるのだ。風土は豊かで気候も穏やか。水源は豊富。

ただ、大陸の奥深くで交通の要所とならなかったため人の出入りが少なく、周辺の小さな村々は、また1つ、また1つと森に消えていく。

少女ミレーヌと開拓団、王国の騎士たちが一次的にだが妥結して村興しを初めて半年。一人の青年が村に帰ってきた。小さな妖精を大切に手でかばいながら。
「ただいま」
「カノン、おかえりなさい」
「あぁ、ティーエも」
カノンの手の中には少し衰弱した幼少期からの友達が居た。
「眩しくて、すぐティーエがいるのバレちゃうんだよね」
「そうだね。よく寝てる…」
彼女は薄い光をまといながらまるで花の蕾のように妖精の羽根に包まれ眠っている。

起きたらすっごい喋るんだろうねと、2人で顔を見合わせる。離れていた半年などなかったかのように。
ミレーヌは彼の文の通りにティーエの寝床を作り、小さな小屋も造っていた。
甲斐甲斐しく長年の親友の世話をするミレーヌを、カノンは勧められた椅子に座って見ている。
彼女はもうすっかり村の女の子だ。


カノンは旅の荷物を解く様子もない。
「もしかしてまたどこか、行っちゃうの?」
お茶のおかわりを持ってきた彼女に即答できないでいる。

「また、春に…僕は異界の穴を封じなきゃいけないから」
「王政からの命令?」
「それはないよ」
ふふ、と笑ってみせるけどミレーヌの顔は晴れない。
自分たちは散々大人たちの都合に振り回された。やっと手に入った呼吸を得るような時間。
「ここにいてカノン」
彼女の頼みは、優しくて残酷だ。
「僕はもう人間じゃないみたい」
だから、人と暮らすことはできない。暗にそう言った。
なのにミレーヌは、ふふ、と笑った。やっと笑ってくれた顔が懐かしくて可愛い。ちょっとカノンが喋れないでいる間に彼女は言った。
「やだわ、私たち、魔族にエルフに妖精に古代人に…人間のほうが珍しいパーティーにいたのに」

彼女は何も怖気づいて無かったのだ。柔らかい腕でカノンの頭を包む。
「ここにいてよ。ここは貴方と私たちの村なんだから」
荷物がどさりと落ちる。
「誰も貴方を傷つけない」
振り払うには温かすぎる。カノンがそっと応えると、ミレーヌはぐいぐいと薄い胸を押しつけるように抱きしめるのだ。
「本当に」
「本当よ」
幼馴染はようやくほっとして、震える大きなため息を漏らした。どちらだったのか。






怖がり

3/17/2026, 1:53:47 AM